弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2006年2月21日
カリスマ幻想
著者:ラケシュ・クラーナ、出版社:税務経理協会
古くはダイエーの中内、マクドナルドの藤田。最近ではライブドアの堀江そしてソフトバンクの孫。まさにカリスマCEOです。アメリカもたくさんいます。クライスラーのリー・アイアコッカ、GEのジャック・ウェルチ、そして、ビル・ゲイツなどなど。
この本は、こられのカリスマ経営者に企業再建を頼ることの愚を明らかにしています。カリスマCEOに対する礼賛、カリスマCEOを存在させている継承プロセス、これらを容認する文化、これらすべてはオズの魔法の神秘化とまったく同じだ。我々は、より成熟した、そして自己をより深く認識した人たちによる、責任ある社会を構築するために、ベールに包まれているそのなかをしっかりと見極めなければならない。
ビジネス・スクールで学生はカリスマ幻想を学ばされる。というのも、リーダーシップ論のテキストは主人公はCEO1人という前提で作成されているからだ。
1992年、アメリカのGE(ゼネラル・モーターズ)で株主である機関投資家が経営陣をすべて更迭した。権力が経営者サイドから投資家サイドに移行したことを物語る。社内の生え抜きがトップになると、それまでの会社のカルチャーを台無しにすることはできない。いやな奴にはなり切れない。そもそも、会社にずっといたのだから、こんな会社にした責任の一端がある。だから、社外の人間を呼ぶことになる。
優れたCEOというのは、有能な経営者から、カリスマ性を備えたリーダーに変わった。会社は単に利益だけでなく、より壮大で、より高潔なミッションをも追求していると従業員が納得してくれるよう、CEOは従業員を指導しなければならない。
つまり、これからの時代のCEOには、メディアやアナリストの注目を集める能力が評価の基準になる。この能力によって、投資家やそのほかの人たちから信頼感を勝ちとり、また、企業に対する高い評価を定着させることができる。CEOほど、よい広報マンはいない。
CEOは外部の人間に求める。うまく機能していない社内の仕組みを変え、順調なことはそのまま維持してくれる。そんな人物を探すことになる。
CEOは企業間を転々と移り、報酬を螺旋的に吊り上げている。それはサーチ会社が後押ししている。経営能力とは関係なく、企業や株主の利益から、かつては見られなかったほどの巨額の報酬・慰労金をかすめとっている実態がある。
ところが、今日行われている社外人材によるCEOの継承の実態は、門戸開放や競争原理とはほど遠い。今日のCEO人材市場は、本来の開かれた市場と同じだと擁護されているが、実態はそうではない。外部CEO人材サーチのプロセスは、トップ経営者層だけの閉鎖生態系を形成している。
アメリカにおいては、大企業のリーダーを選ぶプロセスが、かつての旧東ベルリンの壁のように、囲い込まれてしまっているのが事実だ。そこは、市場原理から隔離されている。
つまり、カリスマCEOというカルトと、それを生み出し助長する閉鎖的な後継者人選のプロセスは、歴史的にみて不思議な現象以上のものである。それは、企業と社会の双方に重大な損害を与える恐れがある。
2000年度の大企業のCEOは、平均して、2000万ドル(20億ドル)の報酬を受けとっていた。これは、1999年度に比べて22〜50%増だ。CEOの報酬全体の3分の2はストック・オプションで占める。企業は株価とストック・オプションの権利行使価格の差額を負担することになる。
1980年代には、平均的CEOは平均的ブルーカラーの42倍の報酬をとっていた。1990年までにその格差は倍の85倍となった。そして、2000年には、CEOの報酬は工場労働者の531倍となった。これは拡大する富の不平等、社会基盤を徐々に崩壊させている。
企業のなかで一個人だけが大きく注目をあび、たくさんの報酬を一人占めしている現実は、企業の実績は一個人の力だけで達成できたのではないという点をまったく無視している。そういう意味でも、社内の人材を無視し、スター経営者の争奪戦に走る傾向は有害である。
外部人材によるCEO継承プロセスが生起した2つの事態、高騰したCEOの報酬とポジションへの膠着した人材流動性、をつぶさに調べてみると、その影響力は重大であり、広範囲に及んでいる。
日本もアメリカに遅れてではありますが、似たような現象が進行中ですので、大変参考になりました。
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