弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年1月31日

極刑

著者:スコット・トゥロー、出版社:岩波書店
 私は、目下、死刑相当事案を国選弁護人として担当していますので、大いに関心をもって読みました。著者は私と同じ団塊世代であり、アメリカの現役の弁護士です。といっても、これまでに「推定無罪」「有罪答弁」「われらが父たちの掟」「囮弁護士」など、次々にベストセラー小説を書いています。私も感心しながら、これら全部を読みました。
 まず、前提事実としてアメリカと日本の死刑囚について、相違点を確認しておきます。
 アメリカには2004年12月時点で3471人の死刑囚、うち少年が80人がいます。死刑判決の件数は2004年は130件でした。1999年は282件でしたから半減しています。死刑執行も半減しており、1999年に98件でしたが、2004年には59件となっています。アメリカで死刑が再開された1973年から2004年までに944件の執行が確認されています。なかでもテキサス州は死刑執行が多く、全米の4割を占めています。イリノイ州では、死刑判決をするには通常の「合理的な疑いを越えて」より高いレベルの「いかなる疑いも越えて」を要求するという法案が審議中です。
 いま、日本の死刑囚は74人。死刑執行は年に1〜3人。死刑判決は2004年に14件と、2000年に入ってから2桁台を維持しています。
 アメリカでも死刑制度の見直しが議論されており、連邦最高裁のスティーブンス判事は、これまで非常に多くの死刑判決が誤って執行されたと語ったそうです。
 著者は1978年にシカゴで検事補になりました。アメリカには10人殺した殺人犯とか、33人もの少年を殺したという人間がゴロゴロいて、アメリカ社会の殺伐さに心が震えてしまいます。
 死刑が犯罪抑止効果があるかどうかという点については、どんな調査・統計によっても、その証明はされていない。むしろ、結果として、死刑が実は殺人を鼓舞しているとさえ指摘されている。
 アメリカの警察署長へのアンケートによると、回答した386人のうち67%は死刑によって殺人件数を減らすとは言えないと回答した。ただし、その多くは哲学的な理由から死刑制度を支持している。
 アメリカでは、死刑判決が出てから執行されるまで平均して11年半かかっている。その間の費用を問題にする人がいるが、それは国家財政の規模からみると、まったく問題にならない。
 イリノイ州では、第一級謀殺で有罪となった被告の70%は黒人、白人は17%でしかない。しかし、いったん有罪となると、白人の殺人犯は黒人の殺人犯の2.5倍の割合で死刑判決を受ける。そして、白人を殺害した犯人は黒人を殺害したときよりも、3.5倍の確率で死刑判決を受ける。
 著者は死刑執行を停止する制度に賛成しています。いま日弁連が提案しているのと同じです。
 死刑は被告人の改心の機会を奪ってしまう。我々と同じ道徳基盤に立って、責任を自覚して遺族に謝罪できたということは、本人のとって、また、法にとって崇高な勝利だ。
 このような体験が紹介されています。死刑制度について、よく考えられたアメリカの弁護士による本として一読に値すると思いました。

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