弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年1月27日

魔王

著者:伊坂幸太郎、出版社:講談社
 不思議な印象を受けた小説です。いままさに進行中の小泉・自民党政治を正面から扱っている。そんな気にさせるストーリーです。
 日本の国民は規律を守る教育を十分に受けていたため、大規模な暴動を起こすことはついになかった。やはり俺たちは飼い慣らされているのだと、ひとり納得した。
 こんな記述が出てきます。たしかに今の私たちは街頭でデモをすることも少なく、ましてストライキなんて、今の日本では完全な死語になっています。でも、ほんと30年前に、スト権ストがあって1週間ぶち抜きましたし、その前は順法ストライキをふくめてストは頻発していて、むしろ、そちらに慣らされていました。もっと前にさかのぼると米騒動、さらに前には百姓一揆もありました。いつも日本人がおとなしいとは限らないのです。いえ、私たち団塊の世代に限っていうと、半年以上も授業をまったく受けなかったのです(無期限ストに学生の半分が賛成したのです)。
 今、この国の国民はどういう人生を送っているか、知っているのか。テレビとパソコンの前に座り、そこに流れてくる情報や娯楽を次々と眺めているだけだ。死ぬまでの間、そうやってただ漫然と生きている。食事も入浴も、仕事も恋愛も、すべて、こなすだけだ。無自覚に、無為に時間を費やし、そのくせ、人生は短いと嘆く。いかに楽をして、益を得るか、そればかりだ。
 憲法と現実は合わせるべきだというのは、おかしいよ。だって、憲法には、人は誰でも平等に扱われるって書いてあるけど、現実には男女差別はある。そのときに現実にあわないから、男女差別はありって憲法を改正するなんてことにはならないだろう。
 国民投票は、一括方式。環境権とか聞こえのいいのを混ぜあわせておいて、抱き合わせ的に憲法9条の改正を飲ませようっていうコンタンなのさ。えー、そうなの・・・?
 小説に憲法9条の全文が引用されています。これも小説としては珍しいことでしょう。
 いま、若者に一目置かれる、手っとり早い方法は、より新しくて、より信頼できる情報をたくさん手に入れること。情報量だ。情報が尊敬につながっている。首相のブレーンはものすごいらしい。情報の質や量が圧倒的だから、議論も負けない。若者が揶揄する隙を与えない。それがだんだん憧憬とか信頼に変わってきて、支持される。
 小泉首相のやり方がこのようにきちんと分析されていて、うなずけます。それでいて、ちゃんとしたストーリーもあるのですから、世の中って、ホントに面白いですよね。

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