弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年1月20日

著者:秋山徳蔵、出版社:中公文庫
 昭和天皇の料理番だった人が語った本です。さすがにプロの言うことは違う。なるほど、なるほどと、すっかり感心してしまいました。
 大正天皇の御大礼の宴会を準備したときのことです。なにしろ2000人が参加する宴会ですから、50人もの料理人で担当したそうです。
 献立を考えるのにひと月かかった。料理にも、重点が一つあって、それが光っていなければならない。その他のものは、それ自身としてはもちろん立派なものでなくてはならないが、重点になる料理の光を消すようなギラツキがあってはいけない。そうして、コース全体が渾然とした調和を保ってこそ、最上の料理といえる。頭に浮かんでくる献立を、思い切って片っ端から落としてしまう。ところが、そのなかに、どうしても落としきれないものが残ってくる。10ぺん考えても、20ぺん考えても、その献立が頭の中に坐っている。それがホンモノである。こうして煮つめて煮つめて、最後に一つの献立を決定した。
 献立の次は、材料の心配だ。生ま物が大部分だから、早くから買い込んでおくわけにはいかない。そのときになってパッとそろうように、もし甲の方に万一のことがあったら乙の方で間に合わせるようにと、万全の手配をしておく。不測の事故ということも考えなければならない。たとえば、スープの鍋をひっくり返したら、どうするか。出さないわけにはいかない。かといって、それだけのものを二重につくっておくことはできない。それで、ダシや味の素を用意して、お湯を湧かしておいて、万一のことがあったら、即座に代わるべきものをつくる。
 料理の一番の奥義は何か。やっぱり香りだ。ことにフランス料理は香りだ。材料の香り、補助味の香り、香料の香り。そういったものが渾然となって、味と色彩とともに一つの交響楽をつくりあげる。これがフランス料理の芸術たるゆえんだ。だから、料理の修業は鼻の修業といってもよい。
 とにかく、料理を専門にする人は、鼻を大切にしなければならない。風邪もひかないように気をつける。また、歯も大切にしなければならない。入れ歯をすると、味に対する感覚がガクンと落ちてしまう。
 うーむ、なるほど、なるほど、そうなんだよね・・・。すとんと腹に落ちることが書かれていて、とても感銘深く思われました。

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