弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年1月19日

戦争案内

著者:戸井昌造、出版社:平凡社ライブラリー
 靖国神社に小泉首相が参拝をくり返し、中国・韓国をはじめとしてアメリカからも批判されながらも憲法9条2項を廃止して戦争のできる国への変身を遂げようとしている今日、まさにタイムリーな本です。
 昭和18年12月、早稲田高等学院2年生だった著者は20歳になると兵隊にとられてしまいました。東条英機首相の命令による学徒動員の第1期生になったわけです。それから3年間、兵隊そして下級将校として戦争を体験し、中国大陸からなんとか無事に帰還するまでの、まことに不合理いや不条理な日々を思い起こしたものです。軍隊というものの、馬鹿馬鹿しいほどの不条理さが、そくそくと読み手に伝わってきます。戦争なんて、本当に絶対、体験なんかしたくありません。
 第一次の学徒動員で出陣したのは全国で3万5000人。軍隊のしくみが図解されていますので、視覚的にもよく分かります。必ずしも確固たる反戦思想の持ち主ではなかった著者が動員される前に、親しい友人に対して、この戦争はおかしいよ。おれたちが死ぬことはないと言ったところ、きみは非国民だという言葉が返ってきたそうです。
 著者は迫撃兵として入隊します。実は、国際法違反の毒ガス部隊でした。でも、肝心の迫撃法もなかったというお粗末さです。
 軍隊内での初年兵のしごきが紹介されています。本当に理不尽で、非人間的ないじめです。でも、人間性をなくさせる効果はあったわけですから、決して一部の下士官のはねあがりではなく、イジメは軍隊の体質そのものです。
 終戦後、日本に帰ってきたとき、兵隊たちがそれまで受けたいじめの仕返しのため将校を裸にして土下座させて謝罪させる場面も紹介されています。でも、土下座くらいですんだのは、兵隊たちにまだ人間性が残っていたということなのでしょう。
 見習士官の服装と装備一式をそろえるのが自前だったということを初めて知りました。700円、今のお金で100万円ほどかかったというのです。お金がないと、見習士官にもなれないのですね。ただし、着ているものと装備の全部が私物になるので、員数あわせの苦労から解放されるわけです。
 著者は応召して所属部隊に向かう途中で病気になり、単身で中国大陸に渡ることになります。到着するまで3ヶ月かかったというのですから、ノンビリしているといえば、ノンビリしています。
 中国大陸の日本軍の前線には、まず弾丸が届き、次に塩、その次に慰安婦がやってきた。従軍慰安婦の確保は日本軍の大事な業務のひとつだった。国は関係ないなんて、とんでもありません。
 戦闘は中隊単位でおこなわれるから、大隊長以上で死んだ人は少ない。将校以上で死ぬのは、兵隊と一緒にたたかった中隊長と小隊長が圧倒的に多かった。著者たち日本兵は中国人を蔑視していた。侵略者であった。
 23歳で生きて帰国して、著者は早稲田大学に復学しました。ところが、クラスメイト46人のうち、人間を社会的視野からとらえ、人間性をないがしろにする戦争に反対し、社会の構造的矛盾に気づいて社会変革のための行動に参加していったのは、わずか3人しかいなかった。
 うーん、やっぱり少ないですよね。これでは戦争に流されてしまったのも無理ないという気がします。今も同じようなものです。その他大勢というのは、いつ世にもいて、ただただ流されていくのですね。ですから、気がついた人から立ちあがって隣りの人に声をかけていくしかありませんね。憲法9条2項を廃止するなんて、戦争を招き寄せるようなものですから、私は反対します。

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