弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年1月17日

健康格差社会

著者:近藤克則、出版社:医学書院
 いま銀行はアメリカのように口座維持手数料をとるようになってきています。そして高所得層だけを相手にする金融サービスが生まれている。その一方で、貯金がほとんどない世帯が増えている。貯金50万円未満の世帯は、1985年に5%だったのに、今はその5倍の23%にもなっている。生活保護受給者も1990年代前半は60万世帯であったのが、今や100万世帯をこえている。
 OECD諸国の相対的貧困率は平均10.2%。日本は、15.3%であり、27ヶ国中5番目に貧困層が多い国である。
 日本に住む日本人、ハワイ在住の日系人、カリフォルニア州在住の日系人を比較する。心筋梗塞は1000人あたり、日本は5.3、カリフォルニアは10.8、冠動脈疾患の可能性は日本25.4、ハワイ34.7、カリフォルニア44.6となっている。
 格差が大きい社会とは、底辺から脱出できる可能性が低い社会。社会的に厳しい環境に置かれている人たちほど、努力や成果を評価される機会は少なく、さげすまされたり、みじめな状況を経験することが多い。だから、慢性的な心理的、社会的なストレスは底辺層ほど大きい。そのストレスに耐えきれなくなったとき、それが外に向かって爆発すれば暴力やテロとなる。内に向かえば、自分を責めて望みを失い、「生きていたいとは思わない」「死んでもいい」「放っておいてくれ」と口にするようになる。
 結婚していない者の死亡率は、結婚している者に比べ、女性で5割高く、男性では実に2.5倍も高い。日本の未婚者の平均余命は1940年で16年、1980年で4〜7年短い。
 ストレスで引き起こされた交感神経系の興奮状態やアドレナリンの過剰分泌などの反応が長期に及ぶと、心機能を始めとする身体機能に悪影響を及ぼす。たとえば、恐怖・不安を訴える者には高血圧が多く、また高コレステロール血症や糖尿病も多い。
 ストレスにさらされると免疫能力が低下し、疾患への抵抗力も低下する。
 客観的な状況は同じでも、それをポジティブにとらえるか、ネガティブに認知するかで、その後の身体的健康には違いが出てくる。
 人生に前向きで、物事のよい面を見ようとする人ほど運命まかせでなく、「自分の幸せは自分の手でつかむ」という姿勢の強い人ほど自らの命を救い、心筋梗塞からの回復というよい面や幸せを、実際につかんでいる。
 今度の仕事は初めての挑戦だが、やり甲斐のある仕事だ。私は、今までいろいろな初体験の仕事を何とかこなしてきた。だから、今度も落ち着いてやればきっとうまくやれると心の準備をし、自分を励まし、精力を傾けて取り組む人がいる。これが生き抜く力の強い人のイメージである。
 生き抜く力の強い人は、自分が成功したときの姿を思い描く力が強く、それに向けて自分をコントロールする力が強い。人生には大変な困難が起こるものだが、それらは応じることが可能な試練・挑戦であり、自分には耐えうるものである。そして、悲しむことや不安になること、実現不可能なこともあるが、だからといっていつまでもそれに囚われ続けてはいないのであると確信している。
 うーむ、なるほど、ですね。ところで、この本には次のような問いかけがなされています。あなたは、どちらを選びますか?
 周囲の平均年収は300万円で、あなたは500万円(A)。周囲の平均年収は700万円で、あなたは600万円(B)。Aを選ぶ人が圧倒的に多いそうです。絶対的な金額より相対的なものが優先するのです。
 いろいろ深く考えさせられる本でした。

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