弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2006年1月17日
ポピュリズムに蝕まれるフランス
著者:国末憲人、出版社:草思社
昨年11月、いつものように仏検一級の試験を受けました。日曜日午後の3時間、うんうん頭をひねりながら文法・長文読解・仏作文そして書き取り、聴き取りのテストを受けるのです。帰って自己採点をしたら66点でした。1ヶ月ほどして結果の通知があり、もちろん不合格だったのですが、68点とっていました。120点満点で、ついに5割をこえることができたのです。といっても一次試験をパスするには8割とならければいけません。この3割のヤマをこえるためには文法をマスターする必要があります。
動詞を名詞に変えて同旨の文章をつくれ、なんていう設問は毎回ほとんど全滅しています。私の得意とするのは長文読解と書き取りです。長くフランス語を勉強していますから、年の功で、この2つだけはなんとかできるのです。それにしても今回、自分の答案用紙を調べたら、一級受験がなんと11回目であったことに気がつき、我ながら驚き、かつ呆れてしまいました。仏検一級を受けはじめてもう11年になるというのです。そりゃあ、5割くらい得点できなければどうしようもないですよね。といっても、実は、今もってろくにフランス語は話せないのです。毎週土曜日のフランス語教室でも、相変わらずたどたどしいフランス語しか話せないので、自分でも嫌になっています。
最近はフランス語はあまり人気がありませんので、受講生が減って、私のクラスの存立が危なくなっています。どうぞみなさん、フランス語を勉強しましょう。それはともかく、フランスを自由に旅行するくらいはできるのですから、長く勉強しているといいこともあるのです。大学に入学したときに第二外国語としてフランス語を選択して以来のフランス語とのつきあいですから、もう38年にもなります。弁護士になったとき、バカにならないようにNHKのフランス語講座を聞きはじめて今に至っていますので、もう31年間もNHKを聴いているのです。うーん、偉いというべきか・・・。
私の愛するそんなフランスが、今やポピュリズムにむしばまれているというのです。この本を読むと、なーんだ、小泉純一郎と同じことをフランスでもやってる政治家連中がゾロゾロいるのか、そう思ってしまいました。
昨年9月の総選挙で小泉自民党が「大勝」した(ホントは、小選挙区制のマジックによるところが大きいのですが・・・)ことについて、AFP通信は小泉首相を次のように評しました。
これまでの日本になかったタイプの指導者だ。大物や実力者に牛耳られている政界のしがらみを断ち切った真のポピュリストである。
では、フランスでは、一体、誰がポピュリストなのか。ご存知、極右のルペンです。大統領選挙の第1回投票でシラク大統領が566万票、20%をとったのに続いたのが、なんとルペンで480万票、17%もとったのです。有力だったジョスパン首相はその次、461万票、16%で3位になってしまったのです。
ルペンは実は莫大な資産を持ち、その自宅はパリ郊外の最高級街の高台にある城館だ。低所得層に人気があるからといって、自分自身は決してその一人というのではない。
ルペンの演説は抜群にうまい。聞いていてともかく面白い。言葉を恐れず、言いたいことは何だっていう。嘘も平気で言う。フランスのすべての問題の原因が移民にあるかのように物事を単純化して語り、市民を扇動しようとする。
これは、まるで小泉純一郎ではありませんか。郵政改革を断行したら日本の景気が回復するなんて、とんでもない嘘を平気で言い通す。アメリカだって公然と反対しているのに(日本の世論が反小泉に向かわないように配慮はしているけれど)、靖国神社参拝に反対しているのは韓国と中国だけかのように言い張ってマスコミを操作するなんて、まるで同じ。
ポピュリズムとは、普通の人々とエリート、善玉と悪玉、味方と敵の二元論を前提として、リーダーが普通の人々の一員であることを強調すると同時に、普通の人々の側に立って彼らをリードし、敵に向かって戦いを挑むヒーローの役割を演じてみせる劇場型政治スタイルである。
若者のうちの低学歴者の2割以上がルペンに投票しているというのも、今回の小泉「大勝」と同じです。小泉の「低IQ層」工作がうまくいって、低学歴の若者が大挙して自民党へ投票したと分析されています。
移民排斥を叫ぶルペンの党(国民戦線、FN)には若い日系人が候補者の一人となっていることを知って驚きました。
フランスでも、選挙のときに候補者を選ぶ要素が、かつての政策から、短期間で変化しやすいイメージにうつってきたと分析されているそうです。怖いことですよね。
フランスの若者たちが路上で暴動を起こし、サルコジ内相が厳しく対処しましたが、そのサルコジ内相はハンガリー移民2世です。弁護士出身でもあります。タカ派が評価を上げるというのも日本と共通したところがあります。フランスの政治って日本とまるで違うと思っていましたが、案外、おおいに似たところがあるようです。