弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2006年1月11日
マルクスだったらこう考える
著者:的場昭弘、出版社:光文社新書
私が大学生のころはマルクスやエンゲルスそしてレーニンの本を読むのはあたりまえの雰囲気でした。私も結構読みました。哲学の話にはとても難解なところがたくさんありましたが、それでも目をはっと大きく開かせるような視点があって、本当に勉強になりました。今でも当時読んだ本は、文庫版がほとんどですが、書斎に置いてあります。
ところが、今やマルクスなんて話題にものぼらなくなりました。この本によると、大学の経済学部にマルクス経済学がなくなっているのは当然のこと、大学内でもマルクス主義を信奉しているなどと人前で口にするのもはばかられるというのです。えーっ、本当にそうなんでしょうか。実社会はともかく、学問の社会では存在してよいと思うのですが・・・。最近のイギリスの調査では20世紀の偉人のトップに多くの人がマルクスをあげたそうです。
最近ではアメリカ資本主義だとか、アメリカ帝国主義という言葉まで口にすることがはばかられるようになっている。かわって、アメリカ民主主義、アメリカ自由主義と言わなければならない。なるほど、マスコミの報道はたしかにそうなっていますよね。でも、かつてのベトナム侵略戦争と同じことを今、現にイラク侵略戦争をアメリカはした(している)わけです。それも大義も根拠もなく、ただ石油利権の支配を求めてしたことが明白となったわけですから、アメリカ帝国主義と呼んで何が悪いのでしょうか。
著者は、資本のグローバリゼーションが進行する今、それに対する抵抗戦線としてマルクス思想を再構築する必要があると訴えています。なぜか? それは、資本のグローバリゼーションこそ、私たちをとことん貧困にし、かつ非人間的な存在にするものだから。貧富の二極化傾向は、国家や民族をこえて、世界的規模で促進されつつある。市場原理の進行によって、こうした現象が水面下ですすんでいる。
たとえば、教育システムの有償化。国公立大学の行政法人化、私立大学の助成金の削減は、教育の分野にも市場原理が導入されたことを意味している。教育レベルが将来の所得を決定するとすれば、こうした社会は両極分化を加速させていることになる。
私は、このくだりを読んで、北欧の国々では大学の授業料が無償であり、学生には手厚い奨学金制度が完備しているということを思い出しました。日本は、まさにアメリカのように逆行した道を突きすすんでいます。
教育は社会の義務である。子どもは最初から集団のなかで教育を受けなければならない。
巨大資本は巨大メディアを傘下におくことで、あらゆる運動に対してメディアをつかったコントロール戦略をとっている。資本が多部門を吸収しつつあるのに、資本に対抗するはずの労働組合が単一部門の中に引きこもるというのは、実に奇妙なことだ。
若者たちが大学で英会話や会計学、コンピューターなどの実務教育を受けている。しかし、このような実務教育は、就職にすぐに役に立つスキルではあるかもしれないが、学ぶべきものを学ばないことになる。ちゃんとした経済学や哲学を学ばなかったことから、若者たちは自分たちがフリーター予備軍として取り扱われていたのだということを自覚できないようになっている。これは、大学が社会に対する批判の目を養うための教育を放棄することで、体制に唯々諾々(いいだくだく)と従う労働者をつくり出すシステムになっている。
福祉に投入されているのは、税金という形をとった集合労働の成果だ。だからこそ、福祉は当然の権利なのだ。
賃金は本来みんなのもの。だから、福祉の切り捨てなどあってはならない。働かない者を働ける者が助けるというのは、何も人間社会に限った話ではなく、動物社会でも広く見られる。自然の摂理なのだ。それなのに、高度に成長した人間文明にあって、逆に福祉が減少していくとは、いったいどういうことなのか・・・。
著者の考えには賛同できないところもありますが、結論として力説しているところには、心から同感します。今こそマルクスの見直しが必要だと私は思います。他者を排除するのではなく、福祉を大切にする社会をつくりあげていきたいものです。今のような弱いものに冷たい日本だと、出生率が落ちて2200年には日本人は700万人しかおらず、いずれ消滅するという予測が出ているではありませんか・・・。今こそ考え直すべきときです。今なら、まだ間に合います。
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