弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年12月28日

財界とは何か

著者:菊池信輝、出版社:平凡社
 まだ30代の学者による財界分析ですが、すごく切れ味よく小気味のいい本でした。やっぱり学者って、たいしたものですね。勉強になりました。
 少し前には財界四天王と呼ばれる経営者がいた。経済界全体ににらみを利かせて資本自由化を強行した小林中、中小企業が共産党・社会党を支持しているのを知って政府に中小企業対策を拡充させた永野重雄、経営危機に陥って労働組合が実権を握りかけていた文化放送に単身乗りこんだ水野成夫、賃上げは生産性の範囲内にせよと宣言した日経連の桜田武。この4人は、財界の機能を非常にわかりやすく世間に見せてくれていた。しかし、経済団体がそれ自身として財界機能を果たせるようになってしまえば、この4人のような存在はいらなくなってしまう。今や経済団体は公明正大に政治を牛耳り、マスコミは、そのあまりの自然さに、財界を報道しなくなり、ニュース性がなくなったから、財界が人の口にのぼらなくなってしまった。
 財界の政党への政治献金システムが完全に確立している。国民協会に改編されてから、1963年から65年には自民党への献金の10分の1が社会・民主党へ献金された。それ以後、疑獄事件は「財界」の網がかかっていない新興産業(たとえばリクルート)や外資系企業(たとえばロッキード)を中心にしか見られない。こうしたシステムを作りえたことは、戦前の財界に比べてはるかに戦後財界の方が政治への安定的な影響力行使システムを備えているというわけだ。
 財界は、政治から自立していないと、いざというときに政治に文句が言えなくなる。
 財界にとって湾岸戦争は、世界中に広がった市場経済秩序の維持に対する貢献の必要性が明らかになった。市場経済秩序から仲間はずれにされたら日本経済の未来はない。その秩序の維持には、ふだんの競争を度外視し、他国と協力しなければならない。しかも、その協力は血を流すものでなければ理解されない。この意味を悟った財界は、急速に平和憲法とそれを支える社会党をはじめとする国民の平和意識を問題視しはじめた。

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