弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年12月27日

税金裁判物語

著者:関戸一考、出版社:せせらぎ出版
 税金のとり方って、富める者に弱く、貧しい者からは苛酷に、というのが古今東西変わらないとは思いますが、このごろの日本は一段とそれがひどくなっている気がします。大企業の裏金は膨大なもので、そこに政治家と暴力団が甘い汁のおこぼれにあずかっています。私の住んでいる町の一角に暴力団専用の駐車場がありますが、高級車がズラリ並んでいます。不景気な世の中なのに、どうして彼らだけはもうかっているのか、不思議でなりません。開通したら赤字必至の九州新幹線の建築をめぐって、用地買収から土木建築まで、すべてにわたって自民党の有力政治家のふところをたっぷりうるおしているという話が伝わってきます。なぜ、税務署はあるところから取らないんでしょう。その気になればガッポリ税収をかせげるはずなのに・・・。
 この本は、税金裁判を専門とする弁護士がいわば手引書として書いたものです。実際に扱った事件をもとにしていますから、大変わかりやすく書かれていて、参考になります。
 税務署が漫然と推計課税をし、それが著しく過大な認定であったときには、更正処分それ自体が国家賠償法上の違法行為となる。このような判例があることを知りました。
 課税処分取消訴訟で、更正処分が取り消されると、還付加算金として年利7.3%の金利がつく。判決確定まで10年かかると、元金の7割がプラスされて返ってくる。これは大変大きなメリットがある、ということです。
 マルサとリョーチョーは異なるもの。リョウチョーは令状のない任意調査なので、断ることができるし、調査理由の開示を求めることができる。
 安易に修正申告してはいけない。修正申告してしまえば異議申立はできない。なぜなら、修正申告は、当初の申告が間違っていたことを自らの自由意思で認めることなのだから。あとでこれをひっくり返すのは非常に難しい。
 ですから、税務署員は甘い言葉と恫喝によって、なんとか修正申告をさせようと迫るのです。だから税務署に更正処分を打たせるべきなのです。
 著者は勇気を出して税金裁判を起こそうと呼びかけています。でも、そのまえに5つのポイントがあるとしています。
 1、本人に十分な怒りがあるか。これがないと長い裁判は続けられない。
 2、取引先が協力的か。取引先が非協力だと致命傷になることがある。
 3、更正処分の内容が本人の実態とかけ離れているか。
 4、どの程度の資料が備えてあるか。所得額が争点となったときに、それを具体的に裏づける資料が必要である。
 5、争点がどこになるか。この点は、国税不服審判所の裁決を検討すれば、だいたい予想がつく。
 税務署をむやみに恐れる必要はありません。しかし、ときによって報復調査を仕掛けてくるという嫌らしい体質をもっていることも忘れてはいけません。ですから、軽々しい気持ちで税金裁判を起こすべきではないのです。やはり、何事も、やるからには徹底して、肚を固めてのぞむ必要があります。
 さあ、あなたも不等な課税処分には断固としてノーと言いましょう。権利は、たたかってこそ自分のものになるのです。

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