弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年12月22日

皇帝ペンギン

著者:橋口いくよ、出版社:幻冬舎
 映画「皇帝ペンギン」を小説化したものです。映画を見ていない人におすすめの本です。皇帝ペンギンたちの過酷な生が、見事な写真と文章で生き生きと描き出されています。
 映画を見ているものにとっては、撮影裏話というか、どうやってこんな過酷な自然条件のなかで撮影できたのか紹介してほしいところでした。ぜひ知りたいところです。
 お父さんペンギンたちは、わが子(まだ卵)を足の上にのせてマイナス40度の厳冬期を過ごします。吹きすさぶブリザードのなかで、背中を丸め肩寄せあって押しくらまんじゅうしながら耐え抜く姿には、ついつい涙が止まらないほどの感動を覚えました。
 皇帝ペンギンたちは繁殖期を迎えると、南極大陸のある地点を目ざして一列になって行進します。そこで、互いの配偶者を探し求めるのです。その求愛ダンスはまるで真冬の大舞踏会。空を見たり、おじぎをしたり、お互いのくちばしでなであい、踊るのです。ユーモラスというより、いかにも真剣で、厳かな儀式だとしか思えません。
 ついに、わが子が誕生します。卵をまず抱えて温めるのは、父ペンギンの役割です。母ペンギンが父ペンギンへ、そーっと上手に卵を手渡しします。おっと、手ではありません。足渡しでした。
 父ペンギンは受けとった卵を足の上に乗せ、自分の身体でスッポリと覆い、冷たい氷の上にじっと立って、3ヶ月間、飲まず(雪を食べますが)食わず(本当に絶食します。おかげで体重は半分以下になります)で過ごすのです。そのあいだに、母ペンギンは海に出て腹いっぱい食べて戻ってくるのです。ところが、繁殖地点と海は遠く離れていて、ペンギンは往復とも歩いていくのですから、なんと3ヶ月という時間がかかるのです。
 ペンギンの子どもたちの姿が実に愛らしい。ぬいぐるみそっくりです。外見上まったく見分けがつかないと思うのですが、ペンギン親子と夫婦は呼びあう声でお互いをきちんと認識しています。これって、すごいことですよね。
 そして、ペンギンの子どもたちには保育所まであるというのですから、驚きです。子どもたち同士が固まって集団をつくって生活するのです。
 こんな過酷な極限状態のなか、家族をつくって生き抜いているペンギンたちに、つい大きな拍手を送りたくなります。
 あなたが、最近、生きるのにちょっと疲れたな、そう思ったときに、この本を手にとってパラパラとめくって写真を眺めてみてください。きっと、何か大きな力を身体のうちに感じることができると思います。

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