弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年12月22日

フィンランドに学ぶ教育と学力

著者:庄井良信、出版社:明石書店
 フィンランドというと、おとぎ話のムーミンの国、最近では携帯電話で世界をリードするノキアの国、古くはソ連が攻めてきたのを撃退した国、というイメージを持っていました。この本によると、初めて知ったことですが、国際学力調査で世界ナンバーワンの国だそうです。ノキアは突然変異の企業ではなかったのです。読解力と科学力で1位、数学で2位、問題解決能力で2位、総合で学力世界1というのです。たいしたものです。この本は、その秘密を探っています。
 フィンランドの学校は、ほとんど学校格差がなく、総合制。学校内で能力別指導はなく、ランキングも否定されていて、非選別型の教育がなされている。学級規模は19.5人。子ども一人ひとりに対してきめ細かい指導が補習を含めてなされている。
 フィンランド人の読書好きは世界でも有名で、1年間に1人平均17冊の本を借りるほど、図書館の利用率はきわめて高い。子どもが12歳になるまで、親が本を読んで聞かせるが、それは父親の役目。授業参観も父親の参加率はきわめて高い。既婚女性の就業率は80%。7歳以下の子どもを持つ女性のうち、4分の3がフルタイムで労働している。乳母車でバスに乗ると、母親も子どももタダになる。バス自体も段差がない。
 学力の高い子と低い子とが一緒に教育を受ける総合制は、子どもにとって学ぶ意欲を高めている。社会的な平等が教育にとって重要だと考えられている。
 人口520万人のフィンランドでは、1人でも子どもの学力を遅れさせるのは社会にとっての大損失となる。教師は教育大学を出た修士であることが必要。それほど教師の給料は高くないが、自由がある。夏休みは6月から8月半ばまで、2ヶ月半もある。
 フィンランドは、小、中、高そして大学まで、授業料は全部タダ。教科書も無償。大学生は返済不要の奨学金がもらえるので、経済的にも親から自立できる。交通費や美術館などの入場料も学生は半額。高校進学率は71%。大学はすべて国立。
 教師は国民のロウソク。暗闇のなかに明かりを照らす人、人々を導く存在、正しい知識やモラルの持ち主、テーブルの真ん中に立っている一本のロウソクのように教師は、その村や町の中心人物である。
 学校の検定教科書制度は1992年に廃止された。教師は教科書を使わない授業を自分で考えて実施している。子どもに、自分が努力すれば何ごとも成し遂げることのできる、自分が主人公であるという自信を持たせる、自己効力感をもたせることに重点がおかれている。だから、子どもは自尊心が高く、何ごとにもねばり強くあきらめない性格をもつことになる。
 いやあ、これって、すごいことですよね。これだけでもフィンランドは素晴らしいと思います。
 フィンランドは北海道よりも人口が少ない。経済競争力は世界一だが、実は失業率は 8.8%と高い。
 国民はブルーカラーかホワイトカラー階級のどちらに属するかの意識が明確であり、大学で学ぶ学生の多くはホワイトカラー階級の子どもである。
 離婚率の高さも世界でトップクラス。結婚したら半分は離婚するという統計がある。
 大学では、学生組合の代表が運営に参加しているし、その代表者が文部大臣になり、首相になっていっている。それほど、教育が大切にされている。
 いやー、ちっとも知りませんでした。日本はフィンランドに大いに学ぶべきだとつくづく思いました。

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