弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2005年12月22日
墜落まで34分
著者:ジュレ・ロングマン、出版社:光文社
9.11のUA93便の話です。まったく悲惨としか言いようがありません。日本人学生1人をふくむ乗客40人が、跡形もなく地上から蒸発してしまいました。現地には大きな穴があいたものの、散乱する機体などはまったく見えなかったのです。犠牲者の遺体のほとんどは皮膚の一部があるだけで、その下の骨や軟組織は残っていなかったと報道されています。
目撃者は現場には何もなかった。飛行機はどこに行ったのかとみな不思議がった。飛行機には、極めて引火性の高い燃料が1万ポンド(4500キログラム)も積載されていた。ぼろぼろになった聖書が発見された。表紙は傷んでいたが、なかは読める状態だった。結び目のついたネクタイも一本地面に落ちていた。岩の上で日光浴をしていた蛇が、攻撃しようと口をあけ、とぐろをまいたまま焼け焦げていた。ボイスレコーダーは、クレーターの下、8メートル掘ったところから回収された。
時速575マイル(925キロ)のスピードで地面に45度の角度で激突した。だから、すべてが粉々に砕け散ってしまったのだ。
44人の乗員乗客の総重量は3400キロあった。ところが、回収された遺体は手足や指などの一部だけで、272キロのみ。しかも、回収された遺体の60%は身元が確認できなかった。外傷が激しいため、死因は「断片化」と記載されていた。現場には一滴の血も認められなかった。このように、ジェット旅客機が地上に激突すると、すべてが見事に消失してしまうことがよく分かりました。
ですから、UA93便が撃ち落とされたわけではないと著者は強調しています。遺物がないことがそれを証明しているというのです。なるほどと思います。ミサイル攻撃で撃ち落とされたのなら、機体の残骸が広い範囲に散乱したはずだから。これは納得できます。
それでは、いったいハイジャックされた飛行機のなかでは何が進行していたのか。本書は、乗客からの携帯電話とメールで、それを再現しています。
ハイジャックされたとき、客室乗務員はコックピットに電話して「このトリップのことで、ご相談したいことがあるんですが」と言うことになっている。パイロットも乗務員も逆らわないように教育されている。
ハイジャック犯は、乗員や乗客の電話をほとんど制止しなかった。乗客たちは不安におののきながら自由に電話しており、そのことで危害を加えられる必要はなかった。おそらくテロリストたち4人は、わずかな人数で抑えこむには乗客が多すぎたので、電話を妨害するのはリスクが大きいと考えたのだろう。
ハイジャック犯は4人とされているが、乗客は3人しか目撃していない。残る1人はどこにいたのか・・・。ちなみに、ほかの3機にはテロリストが5人ずつ乗っていた。このUA93便だけなぜ人数が少ないのか。
「リンダ、よ。UA93便に乗っているの。ハイジャックされたわ。機内にテロリストがいて、連中は爆弾を持っているの」
「連中ったら、2人のノドを掻き切ったのよ」
「高度がどんどん落ちていくわ」
「これから犯人に熱湯を浴びせて飛行機を取り戻すわ。みんながファーストクラスに走っていく。私も行くわ。じゃあね」
「あなた、よく聞いて。いまハイジャックされた飛行機の中なの。この電話は機中からよ。あなたに愛していると言いたくて。子どもたちにとても愛してると伝えてね。ごめんなさい、言葉が見つからないわ。犯人は3人。私、冷静になろうとしているんだけど。世界貿易センタービルに飛行機が突っこんだんですってね。もう一度あなたの顔を見られるといいけど」
「いよいよみたい。みんなでコックピットに突入する気だわ」
「用意はいいか。ようし、さあ、かかれっ(レッツ、ロール)」
ハイジャック犯たちは、乗客がコックピットに押し寄せるのを防ぐため、翼を左右に揺すってボウリングのピンのように倒そうとしたのだろう。捜査陣はこのように見ている。なんと勇気ある人達でしょうか・・・。
44人の乗員・乗客が、顔写真とともに、その生い立ちと生活ぶりが紹介されています。34分間も狭い機中で葛藤させられ、ついに乗客がテロリストたちに勇敢にたち向かっていく情景の再現には心をうたれます。
テロリストをうみ出す状況を一刻も早く根絶したいものです。もちろん、暴力には暴力で、ということではありません。暴力と報復の連鎖は、どこかで断ち切るしかないのです。ですから、アメリカのイラク占領支配は一刻も早くやめさせなくてはいけません。日本の自衛隊がイラクの人々を殺し、また殺される前に、みな無事に日本へ帰国できることを切に願っています。
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