弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2005年12月20日
全盲の弁護士 竹下義樹
著者:小林照幸、出版社:岩波書店
活字中毒の私には、目が見えなくなったら絶望するしかありません。でも、まったく見えないのに点字本で法律書を理解して司法試験に合格した人がいるのです。信じられません。しかも、今や2人のイソ弁(居候弁護士。つまり、所長に雇われている弁護士)、職員8人をかかえる所長でもあるというのです。経営手腕もなかなかのようです。実にたいしたものだと感心してしまいました。
竹下弁護士の話は私も何回か聞いたことがあります。本当にこの人は目が見えていないんだろうかと疑いたくなるほど敏捷な身のこなし、そしてダミ声に近い野太く迫力のある声で自己主張していくのに圧倒されてしまいました。いえ、決して竹下弁護士の悪口を言っているつもりではありません。人間としてのスケールの大きさにただただ圧倒されてしまったということなのです。
この本は竹下弁護士の生い立ち、そして司法試験に合格するまでの苦難の道のりを刻明にたどっています。苦労人が必ずしも世の中にいいことをするとは限りません。それは田中角栄をもち出すまでもありません。妙にねじれたり、カネ、カネ、カネと我利我利亡者になってしまう苦労人を何人も見てきました。それは弁護士も同じことです。苦学して司法試験にせっかく合格したんだから、あとは楽させてくれとばかり、過去の苦しさと訣別して、ぜいたく三昧にふける弁護士も少なくないのが現実です。でも、そこが竹下弁護士は違います。障害者問題、福祉問題を終生の課題として離さないで、今もがんばっています。本当に偉いものです。
竹下弁護士は、小学生のときは弱視でした。つまり生まれつきの全盲ではありません。相撲にうちこんでいました。この相撲のぶつかり稽古によって中学生のときに全盲になってしまったのです。やむなく竹下少年は盲学校に入り、弁論部に入ります。全国盲学校弁論大会に出場し、「弁護士になります」という夢を堂々と語りました。なんとか、ボランティアの助けもかりて、龍谷大学法学部に入学することができました。大学に入学して早々、暮らすの自己紹介のとき、司法試験を受けて弁護士になると述べ、周囲からアホやと思われてしまいました。なにしろ、それまで龍谷大学から司法試験に合格した学生は1人もいなかったのです。
大学でマッサージのアルバイトをしながら法律の勉強をはじめました。そのころは、盲人が司法試験を受けたことがありません。法務省に問い合わせをします。法務省が盲人の受験は不可能ですと回答しました。そこで支援の学生と一緒に上京し、法務省に乗りこんで受験を認めるよう直談判します。この運動の途中で、弁護士になって何をしたいのかが鋭く問われました。障害者問題に取り組む弁護士になりたい。これがこたえでした。
彼女の親の反対を押し切って学生結婚しました。ようやく点字による受験が認められ、司法試験を受験します。しかし、もちろん簡単に合格できるような試験ではありません。しかも、試験会場には、立会人が5人もいるのです。点字の問題文にも間違いだらけ。
国会の予算委員会で参考人として、点字による司法試験のハンディをなくすよう訴える機会を与えられました。委員会が終わったあと廊下へ出ていると、当時の稲葉法務大臣が激励の握手を求めてきました。
点字六法は全51巻、12万円もしました。ボランティア仲間がカンパを集めて買ってくれたのです。
9回目にして、ついに司法試験に合格。このくだりは何度読んでも目が曇ってきます。たいしたものです。ボランティアの手作りの点訳本200冊、録音テープ1000本によって合格をかちとることができたのです。周囲の援助と本人のがんばりが、ついに夢を実現させたわけです。
竹下弁護士は弁護士になって3年目から、売上はトップクラスでした。10年たって、独立して竹下法律事務所を構えたのです。生活保護行政のあり方を問う。山口組とたたかう。何のために弁護士になるのか、その原点を忘れることなく活動しています。それも見事です。いま、日本に全盲の弁護士はまだ2人だけ。でも、ロースクールには全盲の学生が何人かいるそうです。
竹下弁護士は美術館にもよく行きます。ラジオを持参して球場でプロ野球も観戦し、大相撲も見ます。いえ、スキーもし、ネパール登山もしました。ええーっ、そんなー・・・。私だって行ってないのに・・・と叫んでしまいました。
法廷で証人の顔が見えなくても聴覚だけで、ウソを見破るというのです。うーむ、なかなかそこまでは・・・。明日に生きる元気の出てくる本です。
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