弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年12月14日

韓流インパクト

著者:小倉紀蔵、出版社:講談社
 いつも切れ味の鋭い著者の論評には感嘆しています。今度の本も、なるほど、そうなのかー・・・と、ついうなずいてしまいました。
 韓国のGDP(国内総生産)は、日本の10分の1で、神奈川県と千葉県とをあわせたほどの経済規模。それにしては日頃、意外に大きく感じてますよね。とくに三星(サムスン)が世界一になったというのを聞いたりしていますと・・・。
 著者は、ルック・コリアは3度目だと指摘します。
 日本が朝鮮半島に学んだ時期は、これまでに2度あった。1度目は古代の国家創成期。朝鮮半島からの渡来人は、古墳時代の阿知使主(あちのおみ、5世紀初め)、王仁(5世紀初め)、弓月君(5世紀初め)、6世紀の五経博士、易博士、暦博士、医博士。飛鳥時代の恵慈(えじ、595年来日)、恵聡(えそう、595年来日)、観勒(かんろん、602年来日)、曇徴(どんちょう、610年来日)などなど。
 2度目は、16世紀から江戸時代にかけて、朱子学を中心とした儒学や陶磁器づくりなどを学んだ。とりわけ、朝鮮の李退渓(イテゲ、16世紀)は、日本の朱子学に深い影響を与え、日本の儒者たちから尊拝されていた。
 日本の「冬のソナタ」などにみられる「韓流」は大変な経済効果をもたらしている。それは、1430億円にものぼり、韓国のGDFを0.18%押し上げた。韓国への観光客の8割が日本人である。
 ところで、「冬のソナタ」は、その外見上の純粋性にもかかわらず、内実は日本や外国の多様な作品からの引用によって始めて可能となった作品であり、その意味で制作方法論としては雑種性、越境性が強調されるべき作品である。
 主人公チュンサンはユジンにこう語った。
 道に迷ったときは、ポラリス(北極星)を探してごらん。いつも同じ場所にあるから。
 日本では、このポラリスという言葉になじみがない。しかし、韓国社会はポラリスという言葉を大変好む。その背景には儒教がある。儒教でもっとも重要な星が北極星なのである。だから、チュンサンは特別なことを言ったわけではない。ドラマの脚本家は若い女性2人だったが、ポラリスは若い女性でも知っている日常的で常識的な言葉なのである。その言葉が日本では衝撃的だったし、新鮮に映った。ふむふむ、そういうことなんですね。
 韓国の市民運動は著しく中央志向、政治志向であるし、韓国においては「左翼」だからといって「反愛国」「反愛族」ではなく、根っからのナショナリストである。いわば民主と愛国が強固に合体しているのが韓国の市民運動なのである。
 韓国は、儒教・ナショナリズム・ミリタリズムという戦後日本の左翼がもっとも忌み嫌ったものがセットになってそろっている国である。この三点セットがそろって初めて韓国という社会が成り立つのであって、ひとつでも欠ければ韓国のダイナミズムは弱体化する。
 儒教社会では、科挙によって選抜された有能な官僚が政界を支配する。すなわち、実力があれば若者でもどんどん出世できるのである。科挙に一番で受かった若造が一気に中央官庁の局長クラスに抜擢されるということもある。朝鮮王朝でも、重要な思想上の論争の担い手は20代の若者が多かったし、20代で大臣クラスになった若者もいた。儒教で年寄りを大事にするというのは、この激烈な競争社会における弱者救済の一手段であることを理解すべきである。
 うへぇー、そうなのかー・・・、ちっとも知りませんでした。昔からそんなに激しい競争社会だったんですね。ところが、そんな韓国の若者が日本人化しているというのです。
 学生が団体行動をしなくなった。飲み会をしても学生達はあまり現れなくなった。MT(メンバーシップ・トレーニング)に参加する学生が激減してしまった。学生同士の紐帯た弱くなったと同時に、これまでよく守られてきた垂直的な人間関係における秩序と礼儀も崩れかけている。こうなっているんだそうです。
 韓国は弱肉強食の社会、徹底的な競争社会である。しかも、学歴が唯一の尺度になってしまっている。それを補填するものとして血縁や地縁のネットワークがある。しかし、勝者と敗者とがはっきり分かれる社会である。この歪みを補うものとして宗教的な相互扶助と救済・祈福がある。だからこそ、宗教の力は韓国社会では絶大である。
 要するに、韓国社会とは、新自由主義と儒教および諸宗教が合体した社会だと思えばいい。社会福祉が整備されていないため、人々の情と神の救いが頼みの綱なのである。だから社会が不安定になればなるほど、情と信仰は強くなる。
 うーむ、このように分析されると、それならまるでアメリカ社会と同じで、日本人としては単純にルック・コリアと叫んで真似するわけにはいかないということになります。
 閑話休題。今日は私の誕生日です。でも、この年齢になると子どものころと違って、誕生日といってもうれしくなんかありませんよね。1日1日を大切にしたい。健康で、冴えた(スッキリした、という意味です)頭をたもって、たくさん本を読み、おおいに本を書いて出版したいと考えています。親友の書いた「清冽の炎」第1巻、買っていただきましたか。本屋で見かけなかったら、花伝社に注文してくださいね。なにとぞよろしくお願いします。

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