弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年12月 9日

トヨタモデル

著者:阿部和義、出版社:講談社新書
 またまたトヨタをヨイショする本かと思って読みとばしていきました。日本経団連会長を出している企業として、マスコミがトヨタを批判することは考えられないからです。
 著者は3年前に定年退職するまで朝日新聞に長く在籍していたジャーナリストです。定年退職したからには、少しは他のトヨタ絶賛本とは違ったことも書かれているのかと期待していたのですが・・・。それでも、やっと第5章に、「労働組合は会社のいいなりか」というタイトルにぶちあたりました。
 トヨタは、ご承知のとおり業績好調です。2005年には税引き後の利益で1兆円をこえる空前の好業績でした。ところが、なんと、トヨタ自動車労働組合はベースアップの要求を3年連続して見送ることを決めたというのです。5万5千人の組合員をかかえる巨大労組がこんなていたらくなのですから、あきれてモノが言えません。
 いったい、労働組合とは何のため、誰のためにあるのでしょうか・・・。さすがに自動車総連の会長(実は、この人もトヨタ自動車労組から出ている人です)も、3年も続けてベアを要求しないのはおかしいと苦言を呈したということです。トヨタで働く人々のなかにもこのベア要求しないことに不満が高まっているようです。
 連合ではなく、全労連が、ベアを認めないトヨタ、要求しない労組、トヨタは日本全体の賃金を引き下げる役割を担っていると厳しく批判していることが紹介されています。
 そもそも、このトヨタ労組には会社批判派は排除される仕組みが確立されています。 2000年7月の選挙のとき、組合委員長に共産党から立候補した人が組合員の4.5%、2636票をとったことがありました。しかし、その後、組合員50人の署名を集めないと立候補できないように規約が変えられてしまったのです。ホンダでもニッサンでもない制限です。会社からにらまれたくない人が多いので、50人を集めることは難しいのです。
 トヨタは共産党の影響を排除して、会社の統制を貫徹させるために、さまざまなインフォーマル集団を育成してきました。このインフォーマル集団によって、トヨタ労組は運営され、会社との蜜月状態が久しく続いているわけです。トヨタ労組が骨抜きの労働組合でしかないというのは必然なのです。
 しかし、日本の巨大企業には、もっとチェックアンドバランスを内部からもかけるべきではないのでしょうか。ワンマン経営者の言いなりの企業ばかりだと、そもそも企業は社会にとって役に立っているのか、そこで働く人たちの生活と権利は本当に守られているのか、心配になってしまいます。とくに今のように勝ち組優先で、弱者切り捨ての小泉流政治がすすんでいるときには、弱い者の視点に立って、何がいま必要なのか、企業の論理とは別の観点からの提起が求められている気がしてなりません。

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