弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年12月 8日

グローバル経済下のアメリカ日系工場

著者:河村哲二、出版社:東洋経済新報社
 アメリカに日本企業が進出して長くなります。なんとかうまくやっているようです。自動車産業は、アメリカ企業を圧倒しつつあるようですが、なぜそれが可能になったのか、そこにどんな問題があるのか、私の関心のひとつです。
 アメリカ型システムは、単能工的専門化体制を特徴とする。個々の作業者が遂行すべき「ジョブ(職務)」概念が明確で、かつ「ジョブ」間の垣根が高い。個々の作業者は職務定義によって明確に定義された職務を厳密に遂行することが求められる。これは少品種の大量連続生産に適した方式である。
 日本型労務編成は多能工による班組織を特徴としている。頻繁な機種の切り替えに対する柔軟な作業の再配置を可能とする。作業現場の作業長は、現場ノウハウを熟知した現場作業員から内部昇進で確保される。
 日本型システムでは、アメリカ型の職務対応賃金はそのままでは採用できない。昇格・昇進といった人事管理もアメリカ型とは異なってくる。日本型経営・生産システムは、多品種生産をより高効率・高品質で実現するシステムである。
 日本企業の経営システムは長期継続志向と職務間の垣根の低さにある。日本企業が行ってきた能力評価は、仕事の成果ではなく、仕事のプロセスを評価する。成果主義賃金と銘うちながら、実は仕事ぶりを評価する制度であることが少なくない。
 日本の自動車メーカーは、アメリカの自動車産業の中心地であるデトロイトをあえて避け、伝統的に農業地域であった地域に進出したのが特徴的。ここには、UAWなど、戦闘的な労働組合の影響から逃れようという意図があった。また、すべての工場が、設立当初から、プレス工程から最終組立工程までの一貫生産拠点であった。
 アメリカで日本車が売れる原因の大きなものとして、車に対する信頼性が高いことから、中古車の価格が新車とほとんど差がないことがあげられる。
 日本型システムは、製造現場での絶え間ない改善活動や問題解消活動によって維持されている。このような能力構築システムそのものを現地工場でいかに実現するかというのが、大競争下での現地生産の成否のカギとなっている。
 韓国の三星電子が急成長を遂げている。三星電子の経営スタイルは、生産現場は日本式なのに、その基本的な人事制度は日本式ではなく、欧米式に近い。そのミスマッチには驚くべきものがある。
 うーむ、なるほど・・・。そう思いながら読んでいきました。それにしても労働組合のない日系工場というのはどうなんでしょうか。たしかに労務管理はやりやすいのでしょう。でも、いったい企業は何のためにあるのか、その基本を忘れて暴走する歯どめが本当に必要ないものなのでしょうか。そんなことを言うと、今の企業の置かれている厳しい現実をおまえは知らない。夢のような青臭いことを言うな、そんな批判の声が飛んでくるのでしょう。だけど、ですよ。一級建築士による安全手抜きのビル建築を見ていると、今の日本企業の多くがあまりにも目先のもうけを追求して、大切な基本的倫理を忘れ去っている、それが心配でなりません。

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