弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年11月30日

アルジャジーラ

著者:ヒュー・マイルズ、出版社:光文社
 イラク戦争をきっかけとして、私たち日本人にも急に有名になったテレビ局の実像に迫った本です。アメリカのCNNより、ある意味では親しみがあり、信頼できる映像でした。
 アルジャジーラとは、アラビア語で島あるいは半島という意味。その本部はカタールにある。カタールは、1916年以来、イギリスの保護領となっていて、1971年に独立したが、サーニ家が支配している。人口は61万人で、生粋のカタール人の成人人口はなんと、たった8万人でしかない。あと40万人はパキスタン・インド・エジプトなどからやってきた移民労働者。人口の半分が16歳未満。ロシアとイランに次いで世界第3位の天然ガス埋蔵量があるため、1人あたりの国民所得は世界の上位にある。したがって所得税はない。水もガスも電気もタダ。ガソリンは非常に安く、医療もすべて無料。政府の職員は、退職後も現役時代の年収の同額の年金が生涯支給される。
 エジプトの国営放送局には、毎晩、情報相から電話がかかってきて、閣僚の名前と放映する時の順番について指示がある。夜のニュースではムバラク大統領夫人の一日の行動が紹介されるし、大統領の息子の活動を伝える長時間番組もしばしば放映される。
 アルジャジーラにはオーナーはいない。が、カタール政府から資金援助を受けている。株式はカタール政府と少数の個人が所有している。それでも、政府の意向と離れて放送している。
 アルジャジーラのスタッフのうち、4分の1はカタール出身で、残りは他のアラブ諸国の出身者。ゲスト同士が激しくののしりあい、ついには途中で退席してしまうという「反対意見」という番組がある。そこには一般市民も電話で論戦に参加できる。これが圧倒的な人気を呼んでいる。
 もうひとつ、「宗教と生活」という人気番組がある。そこではイスラム聖職者が政治からセックスまでズバリ語る。だから、毎晩、3500万人が観ているという。
 ところが、アルジャジーラはシオニストの手先だと疑われ、アラブ世界に多くの敵をつくってしまった。でも、アメリカやイスラエルのマスコミからはテロの温床だと非難されている。
 アルジャジーラは、広告主へサウジアラビアが圧力をかけるため、年間3000万ドルの赤字を計上した。日本のNHKから入る映像使用料収入が、その赤字を埋めあわせている。なかなか独立採算でもうかっていくのは大変のようです。
 アメリカ軍はバグダッドの中心部の住宅街にあるアルジャジーラの支局をミサイル攻撃して記者を殺した。アルジャジーラをアメリカ軍が敵視したからとしか思えません。
 アルジャジーラは、イラク侵攻と読んで報道していたが、イラクにも米英にも、どちらにも味方してはいなかった。フセイン政権にも米英軍によるイラク侵攻にも反対していた。
 今やアルジャジーラが欧米諸国のアラブ人コミュニティーに与えている影響は大きい。アメリカに180万人、イギリスに40万人、ドイツに80万人のアラビア語人口がいるからである。
 日本にも、このような独立系の、ニュース番組を主体とした局ができたら、ちょっとはマシな日本になるのではないか、つい夢想してしまいました・・・。

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