弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年11月25日

だから、アメリカの牛肉は危ない

著者:ドナルド・スタル、出版社:河出書房新社
 アメリカ産牛肉の輸入が再開されようとしています。吉野屋の牛丼はまだ復活していませんが、同じ牛肉なのに、オーストラリアやニュージーランド産ではダメだという理由が私にはさっぱり分かりません。ところが、私の依頼者でもある焼肉屋の主(あるじ)によると、やっぱりアメリカ産とオージー産とでは、牛肉の味がまるで違うのだそうです。本当かな、と思うのですが、プロが言うのですから間違いないのでしょう。
 アメリカで牛の飼育は、1980年にはテキサス、カンザス、ネブラスカの3州で全土の40%を占めていた。2002年にはこれが54%に増えた。いまや、牛は工場飼育と呼ばれる大規模生産である。牛の解体処理ラインの速度は1時間に400頭が処理できる。ちなみに、鶏なら1分間に200羽、豚は1時間1000頭。
 いまアメリカの牛肉市場は、四大精肉企業が市場の85%を支配している。少し前までは、五大企業の占有率は55%だったのが、さらにすすんだ。精肉企業で世界最大のタイソン社の売上は、1991年に39億ドルだったのが、2001年には107億ドルにまでなっている。3倍の伸びである。
 精肉処理過程で一番の出費は労賃であり、精肉企業は賃金カットと、かつては強力だった労働組合の弱体化に成功している。
 牛肉工場で働く労働者の離職率は驚くほど高い。低いところでも72〜96%。新しい工場では250%にも達する。単純作業に細分化されているため、仕事にうんざりし、疲れ果て、傷つき、さっさと仕事を辞めていく。食肉工場にとって、離職と労働災害が最大
の問題。精肉工場で働く労働者の賃金が低く、環境も劣悪なため、ラテンアメリカやアジア、そしてイラク、ソマリア、ボスニア、カンボジアなどからの移民によって担われるようになっている。
 アメリカでは毎年、食中毒が7600万件発生している。それによって32万5000人が入院し、5200人が死亡している。
 アメリカで販売されている抗生物質の40〜70%が農業につかわれている。長いあいだ抗生物質を混ぜて餌を与え続けると、家畜の肉で人間の健康を脅かしかねない。
 牛からとれるものは無数にある。接着剤、石けん、獣脂、皮革製品、デオドラント、洗剤、マシュマロ、マヨネーズ、アスファルト、ブレーキ液、シャンプー、シェービングクリーム、シガレットペーパー、マッチ、シートロック、壁紙、インスリン、アミノ酸、血漿、コーチゾン、エストロゲン、手術用縫合糸、ビタミンB12など。ええっ、こんなのまで、牛からとれるの・・・。うっそー、と叫んでしまいました。信じられませんよね。
 私も、若いころには、マクドナルドのハンバーガーやケンタッキーフライドチキンを美味しいと思って食べていました。でも、その牛肉や鶏肉が抗生物質を多用し、工場飼育という大量生産されたものであり、化学調味料で味がごまかされているという事実を知ってから食べるのを止めました。
 今日も、これらのファーストフードの店に若者たち(いえ、中年の客も多いです)が群らがっているのを横目で見て、自分たちの健康そして地球環境について、もう少し考えてほしいものだと、つい年寄りのようにつぶやいてしまったことでした。

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