弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年11月18日

隠蔽捜査

著者:今野 敏、出版社:新潮社
 東京は霞ヶ関に君臨する警察庁内部では、キャリア組の高級官僚同士が日々、醜い出世競争をくり広げている。その様子を背景とした小説です。
 官僚の世界は、部下であっても決して信用してはならない。官僚の世界は常に四面楚歌。
 20代の半ばで警察署長になる。部下のほとんどが自分より年上だから痛快だ。親のような年齢の部下がぺこぺこと頭を下げてくる。署長の経験を積むと、県警本部の役職が回ってくる。そして、いかに早く中央の警察庁に戻ってくるかが、出世の一つのバロメーターになる。キャリア組は出発の時点から、退官まで出世競争を強いられる。
 テレビでも新聞でも、本当に大切なことは報道しない。事件報道でも、警察が発表したことだけを報道する。政治に関していえば、もっと極端だ。本質は常に隠されている。国民はさまざまなブームに踊らされ、大切なことから目をそらすようにコントロールされている。うーん、本当にそうなんですよねー・・・。
 かつては日本国内で拳銃は特殊なものだった。しかし、80年代から事情が変わった。中国あたりから、トカレフのコピー銃などが大量に出まわりはじめた。今では、暴力団の3人の1人が拳銃をもっている。かつてのように拳銃は珍しいものではなくなった。うーん、恐ろしい世の中になってしまいました・・・。
 警察官が事件の犯人だったことが判明します。世間の目を恐れて何とか隠し通してしまおうという幹部と、早いところ明らかにした方がかえっていいという幹部とが対立します。これを読んで、すぐに國松長官を思い出しました。警察庁長官の狙撃犯とされた小杉巡査は、いったいその後、どうなったんでしょうか・・・。
 キャリア組で出世コースに乗る警察官僚の息子が受験の挫折から覚せい剤に手を出してしまいました。そのことを知ったとき、親としてどうしたらよいか・・・。こんな難問をおりまぜて話は展開していきます。たしかに、なかなか読ませます。新境地を拓く警察小説だというのも、まんざら嘘ではないでしょう。

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