弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年11月16日

弁護士の仕事術・論理術

著者:矢部正秋、出版社:成美堂出版
 著者の「国境なき弁護士たち」を読んだことがあります。国際的に活躍する渉外弁護士と、地方をはいずりまわる「田舎」弁護士との違いこそあれ、本質的には変わらないんだと感銘を受け、私の本(「法律事務所を10倍活性化する法」)にも引用しました。
 弁護士として30年間、国際ビジネスに携わってきた著者は、弁護士にもっとも必要なのは人間学であると喝破します。まったく同感です。私も弁護になって30年以上たちましたが、相変わらず法理論の展開には自信がありません。とくに、最近のように次々と新法が出来て、法改正がすすむと、まったくお手上げです。それでも弁護士としてなんとかつとまるのは、それこそ年の功で、いささか人間を見る目ができ、大局感が少しは身についたと自負しているからです。
 トイレで用を足しながらケータイをつかっている若者やビジネスマンを見かけた。彼らは自分のもっともプライベートな時間まで、他人の干渉を許している。自分ではケータイをつかっているつもりなのだろうが、これではケータイに使われているだけで、自分というものがまったくない。
 ケータイを多用する人は、一種の躁状態にある。外部から注入される情報を無批判に受け入れ、自分で考える余裕もなくアウトプットする。多くの場合、それはジャンク情報を入手し、出力するにすぎない。饒舌は人を愚かにする。ケータイはなるべく使わない。
 実は、私も同じなんです。ケータイは一応もっていますが、一日に1回つかうかどうかです。ケータイはあくまで私から事務所へかけるためのものなのです。最近では裁判所にも公衆電話がないようになりましたから、ケータイがないと不便です。相手方との交渉のときにも自分のケータイはつかいません。自宅にまで電話があったら嫌だからです。そんなときには、わざわざ公衆電話を探しに出かけます。駅のほかにはコンビニにしかないようになって、本当に困っています。
 自分に制御できることと、できないこととを峻別する。これができれば、少なくともあせりの感情からは解放される。人は制御できないことをコントロールしようとするから、心を乱す。うーん、そうなんですよね。でも、これって、言うは易く、行うは難し・・・です。だけど、大切なことですね、うん。
 危機に直面したら、現状を把握し、対策を考えることが大切。過去のいきさつを批判する余裕なんかない。ふむふむ、そうなんだー・・・。やっぱり、どう打開するか前向きの発想に切り替えるしかないんですね・・・。
 人間の頭は複雑な思考をするようにできてはいない。それを補うにはメモが効果的。メモをとることは思考過程を目で見ること。考えの道筋を目でたどれるから、洩れも簡単に発見できる。見落としていたポイントにも気づき、常に現実的な思考に立ち戻ることができる。また、メモにはカタルシス効果(吐き出し効果)もある。つまり、メモをとることで、感情の揺らぎを吐き出して緩和し、理性的・論理的に考えることができる。
 私も絶えずメモ帳を持ち歩いています。自動車運転中にはっと気がつくことがあります。そんなときには、信号待ちのときにメモに書き込みます。助手席のすぐ手の届くところに、メモ用紙とペンを必ず置いています。
 文章は自分の分身である。効果的にアピールするには、必ず読み手を念頭に置くこと。
 これは私の胸にグサリとくる文章でした。私も、読み手を念頭において書いているつもりなのですが、つい、時間がないから、などの弁解とともに自分のひとりよがりを書いてしまい、反省しています。
 相手の小さな「間違い」を気にする人は、実は本人の精神が不安定なのだ。
 これは、けだし名言だと思いました。私もゆとりがないときには、相手のミスをあげつらうことがあります。でも心がゆったりしているときには、私はこんな間違いはしないようにしようと、ゆとりをもって接することができます。それにしても、この世の中には、なんと威張りちらす人が多いのでしょう。驚きますね。レストランでも、飛行機に乗っても、大声を出したり、ふんぞりかえって命令口調で指図する人が大勢います。そんな光景を見ると、きっとこの人は小さいときからよほど大切にされてこなかったんだな、お気の毒に・・・、とつい同情してしまいます。かといって、そんな人の味方をするつもりは決してありません。
 国際弁護士は、6分間きざみでタイム・シート(業務日誌)をつけなければいけません。1ヶ月に200時間も依頼者に請求するのです。30代の弁護士が年間3000時間も働いているというのに驚いたそうです。まったく考えられない長時間労働です。土・日も休まず、夜は事務所近くのホテル止まりというのです。これでは人間がこわれてしまいます。
 著者は、仕事で徹夜したことは一度もないとのこと。私もそうです。これまで徹夜したのは高校生のとき受験勉強中に実験的に1度したことと、大学生のとき合宿のときに1度あるだけです。翌日、まったく頭がまわらないので、合理的でないと思ってやめました。
 日頃の生活を見直すうえでも役に立つハウツー本です。

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