弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年11月 9日

プロファイリング・ビジネス

著者:ロバート・オハロー、出版社:日経BP社
 9.11のあと、アメリカはますます監視社会と化しつつあります。
 FBIは2004年現在、4000万人について2億5000万セットの指紋を管理しており、さらに毎週3万7000個ずつ増えている。
 民間のデータ管理会社であるチョイスポイントの売上高は8億ドルをこえる。9.11前より30%も増加した。司法省だけでも6700万ドルを支払っている。
 アメリカ合衆国愛国者法は、9.11以前なら強硬派ですら不可能と考えていたような強硬手段を合法化した。アメリカ政府は直ちにこの権限を徹底的に行使している。1年目だけでも1000人をこえる外国人が令状なしで拘束され、その身元は公表されなかった。数千人のイスラム教徒がアメリカ国籍・外国籍を問わず、連邦捜査官の監視下に置かれた。彼らの動静、電話、eメール、インターネットへのアクセス、クレジットカードの支払い状況が四六時中、チェックされた。
 2003年には、アメリカ政府は、犯罪事件よりもテロの捜査に盗聴令状を申請し、 FBIは外国情報監視裁判所から1700件あまりの令状をとり、電子傍受の令状も  1442件うけとった。しかし、そこで誰が容疑者だったのかは、司法関係者以外には一切明らかにされていない。
 個人情報が盗まれ、他人になりすます犯罪が増えている。2002年だけで、700万人のアメリカ人がID詐欺の被害にあっているとみられている。熟練のハッカーなら、コンピューターのなかから名前や社会保障番号、口座番号を盗み出すことができる。最近発覚したケースでは、ハッカーは小売店に代わって決済をコンピュータ処理していた企業からVISA、マスターカード、アメリカンエキスプレスのカード番号を100万件も盗んでいた。しかも、カードの保有者はFBIが捜査を開始するまで、ハッカーが侵入したことを知らされていなかった。情報を盗むのはまったく簡単だが、犯罪を防ぐのは恐ろしく難しい。少なくとも現段階では不可能に近い。
 顔認識のシステムが売りに出されている。しかし、誤った警報が200回も鳴り、そのたびにシステムではなく、警察官が判断しなければならなかった。照明をコントロールする必要もあった。そこで、顔認識システムを採用する空港も警察も少ない。
 犯罪記録のデータベースのうち3分の1は不正確だとFBIも認めている。不正確なデータによって、かえって安全が侵され、潔白な人たちの権利まで侵害される危険がある。
 名前がテロリストと似ているというだけで、空港で足どめをくらう乗客が増えている。それぞれの諜報機関や国土安全保障者が搭乗拒否、要注意リストへの掲載を求めて連日のように名前を送りつけてくるため、連邦航空局と運輸保安局のブラックリストはふくれあがるばかりだ。
 どこの警察でも、システムをつかって人をチェックしたことのない警察官なんていない。ある警察官は、関心のある女性の身元をネットワークをつかって洗い交際を迫り、オンラインで知りあった女性を念入りに調べあげた。ある刑事は、このシステムをつかって別居中の妻の行状を追った。元FBI機関員で私立探偵のマイク・レビンは、FBIの全国犯罪情報センターから機密情報を盗み出し、1件100ドルで転売していた。警察関係の機密書類のブラックマーケットは繁盛している。
 日本でも恐らく同じことが起きているのでしょう。発覚していないのか、マスコミが報道しないのか、きっとどちらかです。少し前のことですが、東京・警視庁で幹部警察官の不倫を追求するためNシステムがつかわれたということが発覚したことがあります。不倫だけなら犯罪ではないのですから、明らかに逸脱ですが、そのとき何ら問題となりませんでした。
 もはや、私たちには隠れる場所すらない。
 これが、この本の結論です。ところが、隠すものがないのなら、何を心配する必要があるだろうか。こんな反論があるそうです。とんでもない言い草です。誰だって他人に知られたくない秘密のひとつやふたつはあってあたり前です。だからこそ個人のプライバシーは尊重されるべきなのです。本当に怖い世の中です。

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