弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年10月13日

あなたの子どもを加害者にしないために

著者:中尾英司、出版社:生活情報センター
 「少年A」と母親についての分析は鋭く、いかにもなるほどと納得できました。
 「少年A」の母は、我が子が納得できない。自分の納得できるA以外は認められない。つまり、目の前の現実をまっすぐに直視できない。これは、目の前のAという存在を母親が否定していることになる。うーん、そうなんだー・・・。
 母親は事件のあとAに会う前は、きっと私に助けを求めてくるはずという確信をもっていた。ところが、現実には、「帰れ、ブタ野郎」という罵声が返ってきた。でも、母親はAがなぜそんなに怒っているのか理解できなかった。
 これを、著者は、母親とAの関係は母子関係というより、支配者と被支配者の関係だとみています。Aの母親は、絶対的支配者としてAの上に君臨し続けていたというのです。
 Aの母親は、物事を白黒どちらかハッキリさせなければ気がすまない性格だと自分を規定しています。著者は、これをラクに生きたい人が陥る性格だと指摘します。というのも、世の中に白黒決着のつく問題はほとんどないからだというのです。
 うーん、なるほど、そうなんです。弁護士を30年以上していて、本当にそう思います。たとえば、小泉首相は本当に無責任な嘘をつく人だと私は思いますが、世の中の多くはそう思っていません。ことは簡単に決着つかないのです。
 謝罪とは、傷つけた相手の気持ちを自分が受けとめたことを相手に伝える行為。だから、相手の気持ちを共感的に受けとめる心があれば、自然と謝罪の言葉は出てくる。ところが、Aの母親は、その謝罪ができなかった。
 Aは、小学3年生のとき、「僕のすべて」であり、唯一絶対の存在であった母親が、実は自分のことを支配していただけで、自分のことはまったく理解しようとしていなかったことを明らかにさとった。そして、ケンカした理由を聞かれることもなく、帰宅したばかりの父親に一方的に殴られたとき、Aは、いつか両親に自分のことを理解してもらえるかもしれないという希望の糸が切れた。Aは自分がネグレクト(無視・放置)されていることを思い知った。
 人は、自分を認めてくれる人に忠誠を尽くす。人は、自分を理解する人間を裏切ることはできない。それほど、人は人に認めてもらいたい存在なのだ。人は、自分の存在が無視されることに耐えられないため、あらゆる手段をつかってストロークを得ようとする。ストロークとは、その人の存在を認めさせるために働きかけること。たとえば、万引するスリルとは、否定的であるにせよ、自分の存在が認知されるという快感のこと。万引という行為のウラには、社会的ルールを犯してまで自己の存在を証明したいという孤独な魂の悲鳴があるのだ。うーん、そうなんだー・・・。
 人は最初から大胆な行動ができるわけではない。最初はちょっと手を出して当たりを見る。その時点で、生命にかかわるようなことであれば、ガツンと分からせなければならない。最初が肝心だ。万引は犯罪の源である。
 本気で叱られたとき、子どもはうれしいもの。自分のことを思ってのことだと分かるから。なによりも、自分と正面からぶつかってくれるから。自分から逃げずに、かつ、自分を育成してくれている。これに勝る生きる喜びはない。
 叱るときは短く、が鉄則。このときに伝えなければならないのは、親の思いであって、理屈ではない。本当にお前のことを心配しているよ、という思いだ。
 親は子どもを見放さず、見守ることが大事だ。
 読んでいるうちに、私自身の子育てについても大いに反省させられるところが多々ありました。一生懸命、子育てにはとりくんできたつもりではいるのですが・・・。周囲を見まわしても、経済的にはかなり恵まれた条件のもとであっても、子育ての難しさに悩んでいる親(弁護士)は決して少なくありません。

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