弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年10月12日

自衛隊指揮官

著者:瀧野隆浩、出版社:講談社α文庫
 自民党が4割の得票率で議席では7割を占めて「大勝」するなか、民主党はタカ派が代表となり、日本国憲法(とくに9条)は今まさに風前の灯です。小選挙区制の得票数では、与党の自民・公明をあわせた票より野党全部の票が200万票も多いというのです。本当に民意を反映しない制度です。亡くなった後藤田正晴元代議士をはじめ、多くの戦争体験者は9条を無視して自衛隊を海外へ派兵するのはいかんと叫んでいます。ところが、戦争を知らない若い40代が、日本を強い国にするために9条をなくせと居丈高です。本当に怖い世の中になりました。
 この本は防衛大学校出身の新聞記者が書いたものです。毎日新聞社会部編集委員という肩書ですが、国家の安全はどう守るのかとオビに書かれています。そこでいう国家には、弱者を守る視点が本当に入っているのか、読みながら絶えず疑問を感じました。自衛隊が「国家を守る」というとき、その実体は我が軍すなわち自衛隊を守るということです。つまり、自衛隊の周辺で、一般市民がウロウロしていたら、それは邪魔者しかありません。もし違うというのなら、ぜひ、そうでないという確かな根拠を訊きたいものです。
 古今東西、軍隊は敵の軍隊とたたかうことと、自己の保身しか頭にないのです。国家を守るというのは、いわばとってつけたものでしかありません。そもそも、いったい国家とは何をさすのでしょうか・・・。
 この本を読んであっと驚いたのは、地下鉄サリン事件が起きた1995年3月20日よりも3日前の3月17日に、陸上自衛隊の化学隊がサリン防衛に動き出していたという事実がさらりと書かれているということです。しかも、なんと戦闘用防護衣まで用意されていたというのです。
 オウム教団がサリンをつかってテロ攻撃することを3日前に自衛隊はつかんでいて、すでに400着の防護衣まで用意されていました。著者はそのことを何ら問題とすることなく、現場の自衛隊指揮官がいかに勇気があったかをほめたたえています。私にはとてもついていけません。事前に情報をつかんでいたのなら、地下鉄に乗りあわせていた一般市民が被害にあわないようにすべきだったのではないのでしょうか・・・。
 現場の第一線にいる指揮官が生命をかけていることは私も認めます。しかし、そんなことを言うのなら、私たちの日常生活を守るために生命をかけている人はほかにもたくさんいるのではないでしょうか。たとえば、電柱にのぼって配線工事をしている人、トンネル工事などに従事している人など・・・。なにも、人を殺す武器をもっている自衛隊だけが生命をかけて国民(とその日常生活)を守っているのではありません。
 私は、防衛大学校を卒業した人たちが、自衛隊を退官したあと、どんな生活をしているのかについて、すごく関心があります。三菱重工業や小松製作所などの兵器(軍需)産業に多くの人が就職(天下り)していっているのではありませんか。どうなんでしょうか。どなたか詳しく事実を教えてください。

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