弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年10月 4日

闘えない軍隊

著者:半田 滋、出版社:講談社α新書
 イラクのサマワに派遣されている自衛隊について、その実情が紹介されています。
 はじめ政府が考えていた場所は別の場所だったし、派遣する時期も二転三転した。陸上自衛隊はイラク南部のサマワかナシリアを希望していた。それが、バグダッドに変わった。ところがアメリカが不満をみせて、北部のバラドを示した。慌てた日本政府が危険を理由に拒否し、振り出しのイラク南部に戻った。
 そもそも、自衛隊員が生命をかけるのは日本の平和と独立を守るため。それが、なぜイラク派遣になるのか。国連平和維持活動(PKO)ならともかく、イラクは死者が増え続けている戦地でもある。だから、派遣の大義が必要だった。サマワが選ばれたのポイントは、イラクへの効果的な復興支援ではなく、いかに自衛隊の安全が確保できるかだった。それには、アメリカ軍から離れている地域であることが、きわめて重要だった。
 実は日本政府も、はじめ自衛隊を守ってくれるのはアメリカ軍しかいないと考えていた。しかし、そのアメリカ軍がイラク人や武装勢力の反発を買って次々に襲撃されている。サマワなら、アメリカ軍のいるバグダッドから300キロも離れていて遠く、アメリカ軍を狙った攻撃に巻きこまれることはない。そこで、サマワが選ばれた。
 サマワの自衛隊宿営地に入る道路には何の標識もない。訪れる人を歓迎するより、安全のために存在を隠すことに重点が置かれている。
 よその国の軍隊は国旗を小さくしているが、自衛隊だけは日の丸を大きく目立つようにつけている。この「目立とう作戦」はイラクで日本の人気が高いことを利用したもの。それは、日本が1970年代から80年代にかけて、ODA(政府開発援助)で惜しみなく注いだことによる。なるほど、そういうことなんですね・・・。
 イラクにいる自衛隊員がもし死亡したときには、3億円近いお金が遺族に支払われることになっています。大変な特別待遇です。
 イラクは今なお戦地である。創設以来、一度も実践を経験したことのない自衛隊は、「最初の一発」を海外で放つかもしれない状況下での活動が続いている。自衛隊のイラク派遣の意義は、復興支援を行うことではなく、あくまでイラクに居続けることなのだ。イラク(サマワ)に自衛隊が安全で居続けられるように、日本政府は、サマワに本格的な火力発電所を建設する資金として127億円を無償援助することにした。途上国支援が目的のODAが、自衛隊を守る武器になっているのです・・・。
 自衛隊のなかには、憲法改正するより、今の規定で活動可能な分野で国際貢献すればよいという現実主義的な声は強い。イラクの復興を日本政府が真剣に考えているのではない。ひたすらアメリカの要請の応じ、自衛隊を派遣すること自体が日米同盟維持の手段であり、目的である。それ以上ではない。復興のために文民を派遣することはまったく眼中にない。
 著者は最後に次のように言っています。
 日本が海外で武力行使をしない特殊な国として戦後60年間過ごした実績を捨て去るのは愚かしいことだと思う。
 私もまったく同感です。アメリカの言いなりになって、そのうしろについていったら、いつのまにか、殺し殺される世界が日本国内でも生まれてしまいます。平和な社会がたちまちのうちにこわされてしまうのです。その点を私たちは自覚すべきだと思うのです。

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