弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年9月28日

だれが源氏物語絵巻を描いたのか

著者:皆本二三江、出版社:草思社
 源氏物語をカラー写真で写しとったような絵巻物があります。いったい誰が描いたのか、実証的に追求していった本です。なーるほど、そうだったのか、うん、そうなんだよなー・・・と納得できる本です。一読をおすすめします。
 結論を先に明かしてしまうと、著者は紀の局、長門の局などを中心とする女房たちが集団で描きあげたものとしています。絵巻は1120年代の前半ころに完成しました。
 源氏絵巻の製作の主力となったのは、古今の絵や書に造詣の深い女房たちだった。実際の製作は、専門絵師に近い技量をもつ者をふくむ多くの女房たちの協同作業だった。
 なぜ、そのように言えるのか、著者は絵のスタイルをこまかく検討していきます。
 指示書きまでされた下図が、彩色の段階で変更されている箇所がある。どう見ても専門絵師の手になるとは思えない描写が散見され、それがそのままにされている。これらは指揮系統が明確であったであろう工房では考えられない。しかも女性の手になると思われる箇所がある。
 当時、女絵と男絵と呼ばれるものがありました。
 女絵は静的で理想化を追求し、男絵は動的でリアルを追求する。男絵では人物の身体プロポーションは5頭身から6頭身で、そのころの人々の正しいプロポーションをあらわしているものだと思われる。ところが、源氏絵巻の方は、多くが8頭身、ときに10頭身にもなっている。そして、男性絵師が描いた女性の鼻は、なぜか大型化する傾向がある。女性の鼻としては大きすぎる。
 源氏絵巻には、素人画と思える表現が混じっている。高い技量をもつ専門絵師が、故意につたなく描くとは考えにくい。むしろ、製作に携わった集団に素人がいたと考えた方が自然だ。うーん、そうなのかー・・・。
 このあと、著者は、現代の男の子と女の子の絵には本質的な違いがあることを立証していきます。女の子は絵空事を描くのに対して、男の子は現実のどこかにある風景のような、根底にリアリズムへの希求がある。なるほど、そう言われたら、そうかもしれません。
 色をつかい、色を組み合わせることに喜びを覚えるのは女性の性質。これは昔も今も変わらない。男には色の話はつまらないもの。男の子の描いた絵には、人物の鼻が省略された顔はない。むしろ、写実的で大きな鼻があらわれる。ところが、女の子は3人の1人は鉤鼻を描き、鼻自体が省略されることもある。
 男の子の絵は動きをともなっていて、女の子の絵の方は静的である。
 これらをふまえて源氏物語絵巻を見ると、男性の登場人物より女性の方が自然に描けている。男性はすべて女性的な風貌であり、真に男性的な男は1人も見あたらない。このように、人物表現には、描き手の性が色濃く投影される。だから、源氏物語絵巻を描いていたのは、先に述べたとおり、女性集団だというわけです。

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