弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年9月27日

憲法改正

著者:渡辺 治、出版社:旬報社
 自衛隊がイラク(サマワ)に派遣されている今日、日本国憲法は現実にあわせて変えた方がいい。もう憲法は死んでしまっている。憲法9条は解釈改憲でズタズタになってしまい、何の役にも立っていない。
 本当でしょうか・・・。著者は、もしそうなら憲法をわざわざ「改正」する必要はないはずだと指摘しています。
 改憲派は、ひとつの根拠に、解釈改憲で憲法9条は現実とあまりにも違ってしまっているから、9条を「改正」して、もう少し現実に近づけ、現実を規制できるものにしようと言っている。では、たとえば憲法14条で男女平等がうたわれているが、現代日本の社会で男女平等が実現していると考えるのか。依然として女性差別が根強く存在しているのが現実だ。でも、だからといって、憲法14条を「改正」して現実に近づけようという議論があるだろうか。
 著者は、このように指摘しています。なるほど、ですよね。
 憲法というのは、現実とまったく一致しているということはない。そもそも、憲法と現実がぴったり一致していたら、憲法にわざわざ規定することはない。憲法の規定というのは、その理想の実現に向けて政治や社会を変えていくよう、国家や大企業などの社会的権力を義務づけている規範なのである。このように、憲法は現実とつねに緊張関係をもち、一定の距離があるものなのだ。
 なるほど、なるほど、まったくそのとおりだと私も思います。
 イラク国民に多国籍軍のなかで残ってもらいたい国を世論調査すると、日本がトップだった。これは、日本の自衛隊がイラクの人をまだ1人も殺していないから。なぜ、そうなっているかというと、自衛隊が憲法9条によって手足をしばられているから。
 9条改憲の狙いは、自衛隊を武力行使目的で派兵することを認めることにある。現在の改憲の目的は、国連決議のあるなしにかかわらず、自衛隊が武力行使目的で海外に行けるようにする点にある。
 しかし、9条改憲だけを突出させると、国民の強い反発を買うので、改憲派は甘いオブラートに包もうとしている。なぜなら、一般的な改憲賛成は56%にのぼるが、9条改憲については反対51%、賛成36%だから。改憲賛成と9条改憲賛成との間にはギャップがある。オブラートになるのは、「知る権利」「プライバシー」「環境権」など・・・。
 9条改憲に反対する人は51%なので、3000万人となる。ところが、政党でいうと9条改憲に反対している共産党400万人、社民党300万人の合計700万人でしかない。残る2300万人は、9条改憲に反対しつつ、自民党か民主党に投票していることになる。だから、この2300万人の人に改憲反対の声をあげてもらうことに成功すれば、改憲は阻止できる状況が生まれるのである。
 なるほど、そうなんですね。まだ、あきらめるのは早すぎます。
 今度、「敗北した」民主党の代表となった前原誠司代議士は43歳の若さですが、典型的なタカ派です。憲法9条2項を削除(廃止)して、日本を強い国にすると言っています。恐ろしいことです。
 私たちは、憲法9条がまだ決して死んではいないこと、9条があるため日本は軍事大国化できていないこと、9条は依然として守るに値することをまず確認する必要がある。
 そうなんだ、そうだよね。私は思わず手をうってしまいました。
 憲法9条があるからこそ、朝鮮戦争のときも、ベトナム戦争のときにも、アメリカの要請にもかかわらず、日本は海外派兵しなくてすんだ。自衛隊は結成50年になるが、いまだ1人の外国人も日本の市民も殺していない。こんな軍隊は世界上どこにもない。まさに軍隊らしからぬ軍隊なのである。政府は、9条をなくして、アメリカ軍と組んで自衛隊が海外に侵攻することを考えている。
 いま日本の自衛隊の実力は「殴る側の大国」になっている。しかし、戦前の日本の教訓を学ぶ必要がある。殴る側は、容易に殴ったことを忘れるが、殴られた側は、いつまでもその痛みを忘れることができない。
 二大政党制というのは、保守二大政党制であり、中・下層の市民を切り捨てて、市民上層の意思だけが政治に反映する政治的仕組みをつくることだ。アメリカの二大政党は、どちらもイラク攻撃賛成、新自由主義改革賛成。イラク攻撃に反対する人にとっては投票する相手がいないのだ。
 うーん、そうなんですよね。日本もそうなってしまいそうで、困ってしまいます。
 小泉・自民党のすすめている構造改革は、多国籍大企業の競争力を強化するために、既存の政治が大企業に課してきた負担や規制を取り払って大企業の自由を回復させる改革のこと。そして、それは2つの柱からなっている。それは、大企業の負担を取り除くための改革と規制緩和からなっている。
 なかなか鋭い指摘に、たびたびうなずいて、赤エンピツをたくさん引きながら読みすすめていきました。わずか140頁ほどの小冊子ですが、ズシリと重たい内容があります。憲法改正論議の背景を知ることのできる絶好の冊子として強く一読をおすすめします。
 ちなみに、著者は私の1年先輩ですが、その語り口は本当にさわやかです。「九条の会」の事務局を担当し、がんばっています。

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