弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年9月 8日

兵士であること

著者:鹿野政直、出版社:朝日新聞社
 兵隊は一銭五厘の葉書で、いくらでも召集できる。
 このようによく言われます。しかし、これには2つの間違いがあります。召集令状は葉書では送られていません。役場の兵事係の人が一軒一軒たずねて手渡すのです。郵便配達夫ではありません。召集令状は受領証がついていて、本人が何時何分に受けとったというハンコが必要で、左の方には汽車の無料乗車券がついていました。それに、葉書は1銭5厘のときもたしかにありましたが、日中戦争が本格化したころには2銭になっていました。
 1942年にコンドームが軍需物資として3210万個つくられています。「慰安所」へ行かない兵士がいると、その兵士は特殊視されました。慰安所へ行かない兵士は気違いだとののしった将校がいました。ある陸軍軍医中尉の報告にのっています。
 日本軍が中国の女性を腰ひもでくくって地雷踏みをさせていたという話も出てきます。山羊や羊の群と同じことをさせていたのです。むごいことです。
 中国戦線に配置された兵士たちが、故郷への手紙のなかで、ほぼ一様に伝えるのは、中国人の抵抗の強さでした。日本兵も強いが、支那兵も相当がんばります、と書いていました。小便一丁、糞八丁という言葉をはじめて知りました。尿意・便意を催し、用を足しているあいだに、部隊がその距離ほどをいってしまうという意味です。
 ある軍曹が、突如便意を催し、やむなく道路のそばのヤブで用を足し、終わって道路に出てみたら、もはや見渡すかぎり人の気がなかった。つい先ほどまで敵の跳梁していた壕所にたった1人いる。かつてない恐怖を覚えた。なんとなく、分かる情景です。
 当時の青年は、人生25歳説をとなえていたというのです。戦争のなかで、長く生きることはまったく保障されていなかったわけです。私は、今やその2倍以上も生きていますが、本当に良かったと思います。まだまだ、知りたいこと、やってみたいことがたくさんあります。
 にもかかわらず、現代日本で人生25歳説を実践しようとする若者がいるのです。もっと自分を大切にしようよ、と私は叫びかけたい気分です。
 日本人は平和ボケしている。そのように言う人がいます。でも、人を殺したことのない人ばかりの社会って、本当にいいことだと私は思います。韓国と違って徴兵制のない日本では、幸いなことに軍隊に無理矢理に入れられて人殺しの訓練をさせられることもありません。人を殺すことも、殺されることもない今の日本の平和を大切に守りたいと思います。
 アメリカでは人を殺せるようになって初めて1人前の男と認められるという本を読んだことがあります(ダグラス・スミス氏の本です)。なるほど、私の世代でいうと、ベトナムの戦場に駆りたてられて、大勢の罪なきベトナム人を殺しまくりました。たくさん殺せば殺すほど英雄になるのです。その点は、お隣の韓国でも同じでした。
 でも、私は、アメリカみたいな戦争をしかける国に日本をしたくありません。ですから、私は日本国憲法9条とりわけ2項を絶対に守り抜きたいと考えています。

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