弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年9月 1日

自衛隊、知られざる変容

著者:朝日新聞取材班、出版社:朝日新聞社
 なんだか防衛庁のホームページを読んでいる気がしてくる本です。本文450頁の分厚い本ですが、残念なことに内容は薄っぺらです。やはり自衛隊にヨイショするばかりでは物足りないという典型みたいな本でした。
 後藤田正晴元副総理はインタビューで次のように語っています。
 米国依存だから、戦後の日本には政府全体の情報機関が育たなかった。国の安全は全部米国任せだから、いまのように属国になってしまった。
 (サハリン沖で大韓航空機がソ連戦闘機に撃墜された事件でも、自衛隊がソ連の無線を傍受した記録を先にアメリカに報告したのを知って)、本当に腹が立った。米国が先、日本が後なんだ。これでは米国の隷下部隊ですよ。こんな自衛隊ならいらんと言ったんだよ。
 私もまったく同感です。ところが、この本には残念ながらまったくそのような視点が欠落しています。自衛隊のエリートたちがトクトクといかに自分はアメリカ軍の幹部たちと交流があるかという自慢話のオンパレードです。
 自衛隊の装備や軍需産業についても、その問題点に迫ったとは言えません。私が最近読んだ新聞記事を次に紹介します。
 80年代の防衛費は10年間の合計で30兆5千億円。それが90年代には46兆8千億円と1.5倍に増えた。90年代に90式戦車が300両(3千億円)、イージス艦6隻(8千億円)が配備された。いずれも対ソ戦への備えである。ところがご承知のとおり、ソ連は90年代に入ってすぐに崩壊してしまった。しかし、政府は、以前の計画に従ってそのまま製造し、配備し続けた。北海道に配備された90式戦車は重さが50トンもあるため、北海道では、戦場になりそうなところへは特別に頑丈な橋や道路をつくった。しかし、対ソ戦の心配はなくなった。でも、本土にはこの戦車を通せる橋も道路もないから、北海道に置いておくしかない。ソ連の崩壊する前に配備したのは全体の1割の30両だけで、あとは相手がいないと分かっても配備し続けた。
 イージス艦は対ソ戦用の最新鋭の軍艦だが、実は第1号艦が最初に配備されたのが93年。つまり、ソ連崩壊の2年後だった。いま、イージス艦はインド洋でアメリカの軍艦に重油を供給する日本の給油艦を護衛することに使われている。おそらく世界で一番コストの高い給油活動だ。
 このような莫大な税金の無駄づかいが堂々となされていることを、どうしてマスコミは取材して報道しないのでしょうか・・・。小さい無駄づかいには目くじら立てるのに、何千億円というと、なんでもないことのように見逃してしまうなんて、おかしなことです。そもそも、いったい軍隊というのは本当に国民を守るものなのか、歴史をふり返ってみて国民を守ってきた事実があるのかという根本問題をぜひ視野にいれてほしいものです。
 いま、日本の自衛隊員は24万人。警察の25万人に次いで大きな組織です。その自衛隊のトップ制服組が堂々とマスコミに登場するようになったのは、イラク・サマワへの派遣からではないでしょうか。憲法9条2項を廃止してしまったら、日本は海外に出かけて戦争する国になってしまいます。恐ろしいことです。
 いつもいつも自衛隊の提灯もちの記事ばかり読まされ、いい加減ウンザリします。

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