弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年8月19日

セビーリャの冷たい目

著者:ロバート・ウィルスン、出版社:ハヤカワ文庫
 ポルトガル在住のイギリス人によるサスペンス小説です。
 スペイン・セビーリャでは毎年1万5千件もの殺人事件が発生する。たいていは麻薬がらみで、残りは家庭内のいざこざ、情痴のもつれによる。被害者と加害者とは必ず顔見知りで、親密な関係にある。このことを背景として、しかし、今までになく類いまれなほど残虐な殺人事件が発生するのです。
 スペインで第二次大戦中に内戦があり、人民戦線とファシスト勢力が殺しあったことが物語の重要な背景として登場します。そして、ソ連に攻めこんだナチス軍にスペインのファシスト勢力もいて敗退しながら残虐行為を重ねていたことも紹介されます。
 そんな経歴を戦後ひた隠しにし、画家として名を売っていた人物が殺されます。殺される前に、被害者のまぶたが切りとられてしまいました。目をふさいで見ないですむようになるのを防ぐためです。いったい、何を殺される直前、強制的に見せられたのでしょうか・・・。次から次に残虐な殺人シーンが出てきて、気持ち悪くなるほどです。
 殺された人間が生前つけていた日記を読みながら、いかにその人間が虐殺を続けていたか、綿々と書きつづられていきます。では、その虐殺された人々の死体を見せられたのでしょうか・・・。
 ルール違反になるのを承知のうえで、見せられたものをあえてバラします。それは殺された人々の、かつての幸せだったころの映像だったのです。お前が殺した人は、こんなに幸せな生活をしていた。お前はそれを何の正当な理由もなく奪い去ったのだ、よく見ておけ・・・。うーん。そうなのか・・・。それこそ人間の心にグサリと刺さる映像なのかもしれない。そう思いました。
 私はいま死刑相当事案を担当しています。殺された人の遺体の写真はむごいものです。目をそむけたくなります。でも、殺された人が生前、幸せに笑顔で生活していたときのフィルム(映像)を殺した被告人に見せたとき、彼がどう思うか。それもショック療法として劇的効果があるかもしれない。つい、そう思ったことでした。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー