弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年8月18日

核に蝕まれる地球

著者:森住 卓、出版社:岩波書店
 表紙の写真はインドの女の子(8歳)のうしろ姿です。生まれたときから、肋骨と背骨が曲がっていました。インド東部ビハール州のジャドゴダはカルカッタから列車で西に5時間の山岳地帯にあります。ウラン鉱山がそこにあるのです。ウラン鉱山は、その廃棄物をダムに捨て、周辺の環境汚染には何の対策もとっていません。奇形児が出ても、おかまいなしです。
 イラクの劣化ウラン弾による被害やセミパラチンスクの核実験場の周辺の放射能汚染による影響については前に紹介しました。ここでは、ビキニ水爆実験とアメリカの核実験場周辺の実像をみてみます。まずはビキニです。
 1954年3月、ビキニ島に近いロンゲラップ島で、アメリカは15メガトン水爆「ブラボー」の実験をしました。このとき、有名なまぐろ漁船第五福龍丸など、操業中の日本の漁船800隻ほどが被害を受けました。ロンゲラップ島には死の灰が2、3センチも降り積もりました。こどもたちは、ときならぬ白い粉を身体にふりかけてはしゃいでいたそうです。やがて、発疹、発熱、嘔吐、下痢をひきおこしました。島民は近くの島に収容され、やがてロンゲラップ島に戻されました。どの程度の放射能による影響があるか、その人体実験をされたのです。島民は完全にモルモット扱いです。
 アメリカのワシントン州ハンフォード核施設の周辺でも被害が出ています。長崎に投下された原爆のプルトニウムも、ここでつくられました。ハンフォードは、西側世界ではもっとも放射能汚染のひどい地域です。ところが、日本は、このハンフォードの農産物(小麦やジャガイモ)を輸入しているのです。放射能汚染について、過去も現在もまったくノーチェックのままにです。
 臭いもなく、味もなく、痛くも痒くもない。すぐに発病するでもない。五感では感じることができない。しかも、放射能の被爆によって発生するのは、ガンや白血病など、通常の病気だ。しかし、問題の地域には、ガンや白血病そして先天的異常など放射能の影響と思われる病気の人が、異常に多い現実がある。
 恐ろしい、知りたくないけど、知らなければいけない現実を、目のあたりにしてくれる「美しい」写真集です。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー