弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年8月11日

セミパラチンスク

著者:森住 卓、出版社:高文社
 セミパラチンスクとは、カザフスタン共和国の東部、草原地帯にあった旧ソ連の各実験場のこと。その広さは日本の四国全体に匹敵する。1949年から40年間にわたって、実に467回もの核実験がなされた。それによってひき起こされた放射能汚染は深刻であり、ガンや白血病が多発し、多数の奇形児がうまれた。
 旧ソ連には地図にのっていない秘密都市があった。秋山さんが行った宇宙開発の都市が秘密都市として有名だが、ここは核実験のための秘密都市だった。核戦争で生き残るための実験として、モスクワの地下鉄と同じものがつくられ、核爆発の破壊力や放射能の影響などが調べられた。
 核実験は地表面だけでなく、地下でも行われた。その343回のうち、120回、つまり3回に1回は失敗した。ということは放射性ガスが周辺に流れたということ。今でも、放射能は、東京の30倍以上を示す。セミパラチンスクのガン死亡率は他州に比べたら3〜4倍と高く、とくに食道癌は18倍以上。母親の染色体異常は他地域の3倍以上。
 人々は、そんな高濃度に放射能汚染された地域に今も住み、生活している。二重胎児、一つ目の胎児など、奇形児のすごさには息を呑む。顔じゅうが大きなコブで覆われてしまった少年など、可哀想で、とても正視できません。それでも家族に見守られて生活しているのが救いです。一見すると静かで平和な草原地帯なのですが、その実相はあまりにも衝撃的です。
 核兵器を根絶しようという叫びを、日本人の私たちはもっともっと声高く上げなければいけない。つくづくそう思いました。

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