弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年7月29日

NHK

著者:松田 浩、出版社:岩波書店
 NHKの放送総局長が安倍官房副長官のもとに出向いて番組の事前説明をした。そして、その直後に番組内容が変更された。NHKはこのことが発覚したあと、それは通常業務の範囲内だと正当化し、逆に内部告発したチーフ・プロデューサーをジャーナリストとして軽率だと非難し、さらに記事にした朝日新聞を虚偽報道と決めつけた。なぜ、こんな権力におもねる偏向が「みなさんのNHK」で起きるのか・・・。
 結論は、NHKの新財源確保という金もうけにあった。海老沢体制のNHKは視聴者と正面から向きあおうとせず、永田町にばかり顔を向けていた。NHKは、デジタル化やハイビジョン普及という国策推進とひきかえに、将来の新財源を確保し、放送・通信融合時代の新サービスを手に入れようと、権力との間でギブ・アンド・テイクの経営戦略をすすめていた。権力とのもちつもたれつの関係は、政治と太いパイプをもつ派閥がNHK内で発言力を増大させることになった。
 かつてのミスターNHKともいうべき礒村尚徳は、日本のメディアはアメリカに完全に洗脳されている、コインランドリー・オブ・ブレイン(自動洗脳機)という評もあるほどだと公然と批判しました。なるほど、NHKは有事法制反対などの政治的な性格をおびた集会やデモをほとんど報道しません。
 NHKの会長は、政治的な意見の対立が国民の間にあるときには、その対立を激化させないのがNHKのモットーだと高言しました。ということは、権力側の言い分のみ報道するということにほかならなりません。たとえば、田中角栄が収賄罪で捕まり、ようやく保釈されて目白台の私邸に戻ったとき、当時のNHK会長がまっ先にお祝いにかけつけました。
 名高い民法学者である我妻栄がNHKの経営委員長になれなかったことを初めて知りました。60年安保のとき、安保反対を表明したからです。また、憲法学者の伊藤正己もNHK会長に内定しながら自民党の反対にあってなれませんでした。この2人がトップになれなかったというNHKが不偏不党であるはずがありません。
 NHKの受信料の支払い拒否・保留件数は75万件にもなっています。わが家もそのひとつです。もともと私はテレビをほとんど見ませんので支払わなくてもいいように思うのですが、視聴者の声を放送に生かす気がないところにお金だけとられるのはまっぴらごめんです。

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