弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2005年7月12日
宮大工棟梁・西岡常一、口伝の重み
著者:西岡常一、出版社:日本経済新聞社
著者は10年も前に亡くなられましたが、法隆寺を修理し、薬師寺西塔を再建した宮大工として有名です。私は、これまでの何冊か著者の本を読みましたが、改めて深い感銘を受けました。
宮大工の祖父は、著者が小学校を卒業して進路を考えているとき、農学校へ行くことを強くすすめました。父の方は、設計図を描ける大工になった方がよいという考えから、工業学校をすすめたのですが・・・。結局、祖父の主張が通りました。
人間も木も草も、みんな土から育つ。宮大工はまず土のことを学んで、土をよく知らんといかん。土を知ってはじめて、そこから育った木のことが分かるのや、というのです。
著者は、農学校の学生のとき1反半の田をまかされました。秋の収穫量は3石でした。学年100人中8位の成績です。ところが、祖父はおかしいと批判しました。1反半ならフツーの農民は4石5斗とれる。稲をつくりながら、稲と話し合いをせず、本と話し合っていたからだ。稲と話せるなら、いま稲が水を欲しがっているのか、こんな肥料をほしがっているのか分かる。本と話したから、稲が言うことをきかなかったんだ・・・。これって、すごい言葉ですよね。私も庭で花や野菜を育てていますし、声をかけてはいるのですが。対話しているってところまではいきません。ですから、よく失敗してしまいます。
木というものは、土の性(さが)によって質が決まる。山のどこに生えているかで癖が生まれる。峠の木か、谷の木か。一目見て分かるようにならなあかん。
堂塔の建立には木を買わず、山を買え。吉野の木、木曾の木と、あちこち混ぜてはいかん。同じ環境の木で組んでいく。
木には陽おもてと陽うらがある。南側が陽おもてで、木は南東に向かって枝を伸ばすから、節が多く、木目は粗い。陽うらの方が木目はきれいに見える。日光に慣れていない陽うらを南にして柱に据えたりすると、乾燥しやすく、風化の速度ははやくなる。太陽にいわば訓練されている部分を、陽のさす方向におく。陽おもての方が木はかたい。
山の頂上、中腹、斜面、南か北か、風の強弱、密林か疎林かで、それぞれに木質は異なる。そうした木の性(しょう)も考慮に入れて使い分け、組みあわす。
木材を見直すと言いながら、外国の木の資源までつぶしてしまってはならない。木の文化を語るなら、まず山を緑にする。それも早く太くの造林ではなく、山全体に自然のままの強い木を育てること。木を生かすには、自然を生かさねばならず、自然を生かすには、自然の中で生きようとする人間の心がなくてはならない。その心とは、永遠なるものへの思いである。
著者の2人の息子さんはいずれも後を継いでいません。しかし、弟子はおられます。
棟梁は自分で仕事をしたらいけない。大きな仕事は、職人に仕事をさせて、それを見ているのが棟梁だ。自分で仕事をしたら、職人として、そこだけを見るようになる。もっと広く仕事全体を見るものなんだ。
うーん、そうかー、そうなんだー・・・。つくづく感心してしましました。職人の芸(仕事)のすごさ、奥深さをつくづく感じさせる本です。
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