弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年7月 5日

ぼくと会社とにっぽん再生

著者:日経産業新聞、出版社:日本経済新聞社
 第一世代のIT起業家として、アスキーの西社長は個人資産200億円を有していました。なんとなく石垣島の近くの島を数億円で買い、自家用ヘリコプターをもち、3000万円の超高級車を乗りまわし、ホテルオークラを定宿としていました。銀座で、1晩にロマネコンティを7本あけました・・・。ええーっ、ロマネコンティ。あの夢みるしかない超高級ワインを7本も・・・。ため息が出ます。
 しかし、西元社長は、それほど楽しくはなかった。そんな生活には何の意味もない、そう回顧しています。いまは埼玉で静かに大学教授をしているそうです。そういう人生もあるんですね・・・。
 この本を読んでもっとも教えられたことは、人材派遣会社は日本をダメにする、ということです。
 2004年3月、労働者派遣法が改正され、施行された。それまでは製造現場への人材派遣は禁止されていた。しかし、給与水準の高い正社員だけでは海外企業とのコスト競争をたたかえない。耐えかねた企業が続々と生産拠点を中国などに移すなかで、日本に工場を残すための「裏技」として1990年代に業務請負が急増した。
 メーカーの正社員の給与を時給にすると2000円。これに健康保険などのコストを加えると会社の負担は3000円となる。ところが、同じ仕事を請負会社にまわすと、1300円ですむ。労働者に支払われるのは1100円。ともかく、会社負担は3分の1ですむ。しかも、生産量の変動にあわせて、現場の人員は自由に増減できる。
 しかし、強い副作用がある。その一つは、現場の技能が伝承されないこと、もう一つは、安全確保が危ぶまれることだ。いくら経費を削っても、事故が起きれば、コストは一気に膨らむ。安全管理こそが結果的には最大の経費抑制となる。顔も名前も覚えられないほど頻繁に入れ替わる請負会社の社員がいると、職場としての一体感をもてず、現場感覚を教えようがない。業務請負など、協力会社に対して危険回避の情報伝達を簡素化している工場ほど、事故を起こしやすい。
 ところで、請負会社は神奈川県だけでも2000社もあり、生き残り競争は熾烈だ。
 今の30代、40代の労働者はヘトヘト。団塊の世代が定年を迎える2007年まであと2年。中堅層にエネルギーを充填しておかないと、団塊世代が抜けたあとが大変だ。
 強い会社は、ベテラン、中堅、若手のバランスがいい。
 正社員は同じ職場の請負社員とほとんど口をきかない。仲が悪いのではない。不用意に仕事の話をすると、正社員が請負社員に指示を出したことになり、メーカーが請負社員に直接指示を出す違法な「偽装請負」とみなされるからだ。
 メーカーの社員が請負で働く人に作業の指示を出し、残業も命じるなど、人材派遣でしか許されない事項をハローワークの窓口担当者が見つけると、「これは請負ではなく、違法派遣です」と求人をはねつける。
 請負や派遣で働く人が将来への希望をもてる仕組みが何よりも重要だ。メーカーが、いつでも解雇できる安価な労働とみているうちは、働く人の展望は開けない。100万人とされる請負労働者が将来の展望ももてずに働く現状は正常なのか。今のままでは、日本の製造業は衰退してしまう・・・。
 私の身近な人にも人材派遣会社、請負会社で働く人が本当に増えました。技能の蓄積がなく、安全面の配慮もないまま、ただ安くつかえればいいという発想の企業があまりにも多い気がします。
 どうでしょうか、みなさんのまわりは・・・?

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー