弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2005年7月 4日
歎異抄論釈
著者:佐藤正英、出版社:青土社
善人なほもて往生をとぐ、いはんや悪人をや。
私は、この言葉に初めて出会ったとき、驚いてしまいました。親鸞の言葉は私たちを戸惑わせるところがあるとこの本に書かれていますが、まさに、そのとおりです。この本には、次のように解説されています。
世の人は通常、悪人でさえも西方浄土に往き生まれる。まして、どうして善人が往き生まれないであろうかという。しかし、これは阿弥陀仏の誓願の趣旨に反している。というのは、自己のはたらきによって善の行為を実践するひとは、阿弥陀仏の絶対知のはたらきにひたすら身を委ねる心が欠けている故に、阿弥陀仏の誓願の対象にふさわしくない。煩悩をもっている私たちが、どのような善の行為によっても生死流転の境界を離れることができないのを大いにあわれみ、悲しんで誓願を起こされた阿弥陀仏の本来の意思は、悪人が絶対知を体得して仏になるためであるから、阿弥陀仏の誓願のはたらきに身を委ねる悪人こそ、まさしく西方浄土に往き生まれる存在なのである。
ところで、この言葉は、実は、親鸞の師である法然のものなんだそうです。「法然上人伝記」に、善人尚ほ以て往生す、況んや悪人をや、とあるのです。親鸞は師である法然の言葉を、それと断りなしに弟子に語り伝えたのだと著者は言います。もちろん、そのこと自体に何の問題もありません。でも、やっぱり、ちょっと先ほどの解説は難しいですよね。善人とか悪人の定義は、何回読み返してもよく分かりません。
善人とは自力作善のひと、ひとえに他力を頼む心欠けたる人、つまり阿弥陀仏の誓願に全面的に身を委ねようとはしない人のこと。悪人とは、煩悩具足のわれら、つまり、他力を頼みたてまつる悪人のこと、というのです。そして、悪人とは、西方浄土に往き生まれることの正機ではあるが、正因ではない。真にして実なる浄土に往き生まれる正因は、不思議の仏智を信ずること、つまり信にある、というのです。
善人は、すべて他力を信じていないひとであって、他力を信じている善人はありえない。他力を信じたとき、ひとはみな悪人となる。私たちの多くは、阿弥陀仏の誓願への信を抱いていない。その反面、煩悩にはこと欠かない。同時に、漠然とではあるが、絶対知への希求をもっている。つまり、ごく普通の意味での日常な存在である。そのような私たちは、阿弥陀仏の正機としての悪人ではあるが、西方浄土に往き生まれることの正因としての悪人ではない。他力を信じることは難しい。
このような解説は本当に難しくて、よく理解できませんでした。まして、人を千人殺して悪人になれとかいう問答となると、私の理解を超えてしまいます。
本文だけで780頁もある大部な本です。京都に行った帰りの新幹線で読みふけりました。「歎異抄」が古くから有名な書物ではなかったこと、その作者は親鸞の弟子の一人であった唯円であろうということが、明治40年以降に定説になったことを初めて知りました。そして、「歎異抄」の構成が二部に分かれていることも知りました。
京都に行って初めて沙羅双樹の花を見ました。インドと日本とでは、沙羅双樹の木は種類が違うそうですが、「平家物語」にうたわれた沙羅双樹は日本の木をイメージしたものです。
朝に咲き、夕には散りゆく白い花です。庭にたくさんの白い花が散っていました。夏に咲く椿の白い花と思ったら間違いありません。
形あるものは必ずこわれていく。形うつくしきもの永遠に保てず、という真理をあらわした花だということが実感できました。
東林院のお坊さんの説教も聞くことができ、久しぶりに心が洗われた気がしました。
お釈迦さまは、今日なすべきことを明日に延ばさず、確かにしていくことが、よき一日を生きる道であるとお教えになっているそうです。今は今しかない。二度とめぐり来ない今日一日を大切に、悔いなき人生を送らねばという気持ちが、改めて湧いてきました。
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