弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年6月27日

スパイのためのハンドブック

著者:ウォルフガング・ロッツ、出版社:ハヤカワ文庫
 イスラエルにモサドというアメリカのCIAをしのぐ秘密諜報部があるというのは有名です。そのエジプト駐在員として大活躍し、エジプト政府に逮捕され、第三次中東戦争のときに5000人のエジプト人捕虜と交換に釈放されたという大物スパイが自分の体験をふまえて、スパイになる方法を一般人に向けて書いた本です。面白い内容ですが、私には、とてもスパイはつとまりそうにもないと実感しました。
 嘘に熟達していなければ、スパイとして決して成功しない。
 著者は捕まるまで5年間もちこたえたが、一般に現地工作員の平均稼働年数は3年間。ゾルゲは日本にどれくらいいたんだったっけ・・・。
 二重スパイに転向する工作員の大部分は、短期間に大金をつくるつもりでそうするが、その富を楽しむほど長生きした者はほとんどいない。
 スパイになりたいと思う人は多いが、いくじなし、ひっこみ思案の人、あるいは決断力のない人がこの業界に入る余地はない。規則は破るしかない。この仕事につく者はおのれの才覚だけをたよりに生き、そして生き続けるしかない。
 著者は元ナチス軍にいたドイツ人ビジネスマンを装いました。そこで、ロンメル・アフリカ軍団にいたことにするため、ことこまかいことまで記憶するよう100回も書いて努力したそうです。
 人生の盛りを情報部で過ごし、たびたび不愉快な目にあい、毎日のように自由や生命を失うような危険に直面した。その代償としてもらうわずかな手当では、いざというときのための貯金さえできない。しかし、そのいざという日は、情報部を退職するときに必ずやってくる。
 捕まったときは、相手がどの程度知っているか探りだそうとせよ。黙りこくってはいけない。相手と議論し、論争し、弁明せよ。英雄的沈黙を守ろうとしてはいけない。話し続けよ。もっとも大切なことは、相手に話し続けさせること。黙秘権の行使ではダメなんですね・・・。
 相手に悪口雑言をぶつけて怒らせよ。腹をたてた人は、自分のいうことに注意しなくなる。相手が具体的な証拠をつきつけてくるときは、十分な予備知識がある。ともかく殴ってくるときは、彼らの知っていることは少ない。全部知っていることはまずない。
 大きな嘘に小さな真実を混ぜる。ほんの少し真実を提供して相手に確かめさせ、それを手のこんだ嘘で飾りたてて違った方向に導くのだ。
 なるほど、なるほどと思いました。スパイになるのは大変ですし、スパイを続けるのはいかにも非人間的な大変な苦労をともなうようです。

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