弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年6月23日

イノベーションの経営学

著者:ジョー・ティッド、出版社:NTT出版
 本文450頁の部厚いビジネス書です、ずっしり重量感があります。
 イギリスのサセックス大学の学者集団によるマネジメントのテキストです。
 マルクス・エンゲルスの「共産党宣言」(1848年)が引用されています。久しぶりに読みましたが、現代ビジネス指南テキストで再会するというのは意外でした。
 「生産の絶えまない変革・あらゆる社会状態の止むことのない変化、永遠の不安定・・・。以前に確立された国内の古い産業のすべては、すでに破壊されたか、もしくは日々破壊されつつある、それらは新しい産業によって駆逐され・・・新しい産業の製品は、われわれの家庭ばかりか、世界の隅々において消費されている。国内の生産物によって満たされていた昔の欲望の代わりに、新しい欲望が現われ、・・・諸国民の知的な創造力が共有の財産となる」
 おやおや、これが今から160年ほど前に書かれた文章だとはとても思えませんよね。この本でも、不確実性と国際化とイノベーションが決して新しい現象ではないという例証として引用されています。
 ところで、イノベーションとは何でしょうか?
 この本は、いくつかの定義を紹介しています。
 イノベーションとは、機会を新しいアイデアへと転換し、さらにそれらが広く実用に供せられるように育てていく過程である。
 イノベーションとは、飛躍的な技術進歩を商業化すること(画期的イノベーション)のみを意味するのではなく、技術的ノウハウを少しずつ変化させ、実用化すること(改善もしくは漸進的イノベーション)をも包含する言葉である。
 企業機密がもれるのは、人から人へ話が伝わったりして防ぎようがない。しかし、蓄積された暗黙知は永く持続するし、とくにそれが特定の企業や地域と一体化しているときには、模倣することは困難である。
 日本の自動車産業のもつ優れた特質も、やがてアメリカの自動車製造企業に模倣され、両者の生産性の差は解消されていった。
 「コアの硬直性」が凝り固まってしまうと、それを取り除くためには、トップ経営者の入れ替えが必要になることがある。なるほど、だから、創業者オーナーだって追放するしかないことがあるんですね。
 世界最大の携帯電話機メーカーであるフィンランドのノキア社は、11の国で4万4000人を雇用しているが、その半分はフィンランド人。成長率が高かったので、ノキア社のスタッフの半分は勤め始めて3年以下、平均年齢32歳。売上げの9%が研究開発に費やされ、3分の1のスタッフがデザインと研究開発に従事している。
 稼働中のロボットの労働者1万人あたりの数は、イギリス21台、アメリカ33台、ドイツ69台に対して、日本は338台(1995年)。
 イノベーションの本質は学習と変革であり、それは時として破壊的でリスクが高く、コストがかかる。イノベーションを成し遂げるためには、このような慣性を克服するためのエネルギーと、物事の秩序を変えるのだという強い意志が必要である。
 イノベーションに内在する不確実性と複雑性によって、多くの有望な発明が外の世界に出る前に死んでしまう。だから、もともとのアイデアを擁護し、組織のシステム内を通り抜けるための支援に、エネルギーと熱意を注ぎこむ覚悟をもった、カギとなる個人またはグループが不可欠である。ゲートキーパーが必要だということです。十分に理解できたわけではありませんが、なかなか勉強になりました。

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