弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年5月26日

日本型成果主義の可能性

著者:城 繁幸、出版社:東洋経済新報社
 同じ著者の「内側から見た富士通」(光文社)はベストセラーにもなりましたが、この本で成果主義の問題点が具体的によく分かり、なるほどなるほどと納得させられました。
 この本は、さらに議論を前にすすめています。これまた、企業社会に身を置いたことのない私にも実感としてよく分かりました。年功序列の最大の特徴は差をつけないことにある。年功序列制度が日本の発展を支えてきた。それは差をつけないから、落伍者を生み出さない。そこで必然的にいかにポストを増やすか、いかに仕事を増やすかというのが経営方針となってきた。そこには評価制度は必要なかった。
 日本企業の成果主義は、たいてい目標管理制度をともなっているが、それには上から下への目標のブレイクダウンという特徴がある。しかし、目標管理制度が理論どおりに機能するためには、1.目標が数値化できる、2.目標のハードルが同じ高さ、3.常に目標が現状にマッチしている、4.評価のとき、達成度だけで絶対評価が可能、この4点が必要である。
 しかし、現実に起きることは、目標が低いレベル化することと、評価の大量インフレだ。目標達成者が急増しても、実は、肝心の企業業績は一向に上がらないということが起こりうる。目標管理という壮大な手間をかけつつ、実は、年功序列制度と変わらないことをしていた、ということになるだけ。
 社員の給与をいくら削れるか、これしか関心のない経営者は成果主義を考えてはいけない。なぜなら、高い評価を受けた社員が1割いたとして、残る社員のうち、少なくとも2倍(2割)は士気(モチベーション)を下げてしまう。社員総体のやる気まで必ず下がるだろう。成果主義によって人材の「不良債権化」がはじまる。
 要するに、ごく一部の従業員だけがやる気を出しても、残りの社員がやる気を喪失するような制度では、組織全体のパフォーマンスは決して上がらないということです。
 そう言われたらそのとおりですよね。韓国は日本の先を行ってアメリカ並みになろうとしているそうです。でも、著者もアメリカ社会は決して真似してよい社会とは思えないと言っています。国民の2割が貧困層、3000万人が日々の食事にも窮しているのです。2極分化がすすめば、社会不安も増大していきます。犯罪も多発します。みなさん、よくよく考え直しましょうね・・・。

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