弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年5月24日

北海道警察の冷たい夏

著者:曽我部 司、出版社:講談社文庫
 なるほど、題名のとおり背筋がゾクゾクしてくるほどの冷たさを感じます。今や北海道はロシア・マフィアに実質的に支配されているのも同然だとされているのです。ロシア・マフィアはパキスタン人を配下として日本から盗難車をロシアに密輸出し、また、大量の覚せい剤を密輸入しているというのです。北海道の暴力団はロシア・マフィアの非合法ビジネスに組み込まれ、密漁カニ、拳銃、売春・・・何でもありの世界になっている・・・。
 道警の稲葉警部の事件を、この本によって詳しく知ることができました。事実は小説より奇なりとは昔からよく言いますが、まさしく、そのとおりです。警察庁登録50号事件というのがある。南アフリカから、ブラジル製のロッシーという拳銃が800丁も日本に輸入されたことを警視庁が察知した。1996年のこと。公安委員会の許可を得て、警察庁を中心として千葉県警、警視庁、北海道警による合同捜査がすすめられた。そのとき、関東に面の割れていない道警の稲葉警部が抜てきされて、暴力団員になりすまして潜入捜査にあたった。元暴力団幹部と組んで囮捜査をすすめていった。ところが、稲葉警部の耳がフラワーになっているのに気づいた相手の暴力団員が怪しみ、稲葉警部の耳に拳銃をあてて引き金を指にかけた。その場は、元幹部が言い逃れを言ってなんとか切り抜けたが、小便をちびるほどの恐怖だったとあとで感想をもらした。
 結局、この捜査は失敗し、800丁のうちわずか8丁の拳銃を摘発しただけで終わってしまった。この失敗から、稲葉警部はスパイ(S)を大切に運用するしかないと確信し、また、警察という組織にも不信感を抱いたというのです。耳がフラワーになっているという言葉を初めて知りました。柔道で鍛えると耳の軟骨が慢性的に潰れてしまい、耳全体が分厚く膨れている状態をさすのだそうです。今度、警察官の耳をじっくり観察することにしましょう。
 稲葉警部は借りていたマンションが9部屋、所有物件が4ヶ所。ハーレーダビッドソンを3台も所有。ポルシェにも乗って、愛人は3人。そのうち1人は同僚の警官(24歳)。そんなお金がどこから出てくるの・・・。そんな生活を何年間もしていました。上司の覚えがよかったからできたことです。ところで、稲葉警部は今や刑務所生活ですが、彼を部下として利用してきた歴代の道警の銃器対策課長はみな出世して、現在も道警の幹部のままです。稲葉警部が7年間で100丁の拳銃を押収などした成果をチャッカリ我がものとし、邪魔になった稲葉警部を切り捨てて平然としている。なんと恐ろしいことでしょう・・・。すさまじい腐臭が遠く九州まで漂ってきました。
 これは北海道警だけの問題ではない。赤いオビにそう書かれています。まさしく言い得て妙です。なんとかしてくれよ。そう叫びたくなりました。熱いお茶でも飲んで気分をとりあえず安めることにしましょう・・・。だけど、これは決して忘れることはできない深刻な日本警察の現実です。日本って、こんな国だったんですね・・・。ああ、やだ、やだ。これは寅さん映画に出てきていたタコ社長のせりふです。でも、感嘆にあきらめるわけにはいきません。日本警察の民主化をすすめたいものです。

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