弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年5月10日

帝国の傲慢

著者:マイケル・ショワー、出版社:日経BP社
 CIA幹部がビン・ラディンとのたたかいでアメリカの戦争が成果をあげていないことを暴露した本です。アメリカで50万部売れたベストセラー本だそうです。
 アメリカのイラクに対する侵略は、1846年のメキシコ戦争と同じく、差し迫った脅威を呈していない相手に対して経済的利益を狙いに、挑発もされないのに戦端を開いた強欲で計画的な侵略戦争だ。
 この戦争は子々孫々の代まで続くおそれがあり、主としてアメリカ本土が戦場となる可能性がある。アルカイダが再びアメリカ本土に攻撃を加えてくる可能性がますます高まっており、次の攻撃は9.11を上まわる被害をもたらすおそれがあり、しかも大量破壊兵器が使用される心配がある。
 ビン・ラディンの戦力の90%が生き延びている。アフガン人は一人としてビン・ラディンの情報を寄せなかった。現代において、ビン・ラディンこそが全能なるアッラーに自らを捧げた英雄である。ビン・ラディンは虐げられた人々の解放者である。人々はビン・ラディンを尊敬するだけでなく、愛している。ビン・ラディンのために働いて命を落とすなら本望だと人々は考えている。
 アメリカから見たら邪悪な自爆テロ実行犯は、イスラムから見たら殉教の英雄であり、予言者の指導に従ってその足跡をたどり、神の言葉に従う善男善女ということになる。
 ビン・ラディンは明瞭な言葉で語り、その言葉と行為が一致していることで評価されている。ビン・ラディンが聖戦に関する権威者の一人として、アメリカに対して大量破壊兵器の使用を必要と判断し、その使用は宗教的に法に適う行為だと確信していることは明白だ。だから、ビン・ラディンとアルカイダがアメリカ国内で大量破壊兵器を使用したとしても、驚くに値しない。
 アメリカでは、たしかに対テロ対策費は大幅に増額された。アルカイダなどの武装勢力に対抗するための技術と人材は劇的に増強された。テロ対策にたずさわる人間の数は急増した。ただし、大半は未経験者で、数少ないベテランから必要な知識を学ぶには何年もかかる。司法省は国内における保護対策に着手したというが、それは残念なことに国家安全保障の名のもとにアメリカ国民の自由を制限する対策である・・・。
 アメリカが戦っている敵は、優れた才能と不屈の気概を持ち、カリスマ性と断固たる決意を備え、その垂範と指導力によって一部の狂信的イスラム教徒のみならず大多数のイスラム教徒を統率してアメリカの安全保障を脅かしている。このような共通認識をもってあたるべきだ。著者は、このことを再三強調しています。
 アメリカが戦っている相手は世界規模のイスラム武装勢力であり、単なる犯罪者やテロリスとではない。アメリカの政策や対策は敵にはほんの小さな打撃を与えたにすぎない。世界13億人のイスラム教徒の大半がアメリカを憎悪している原因は、単に価値観の相違ではなく、アメリカの行為そのものにあることを認識すべきだ。
 さすがは、CIAでイスラム世界の対策に従事していた人の言葉だけはあるな。そう感心しました。アメリカは傲慢が原因で敗北しようとしているという指摘に、私も同感です。いかにアメリカが近代兵器を駆使しようとも、また、フセイン元大統領を捕まえ、その息子たちを虐殺することができたとはいえ、イラク国内でのテロ攻撃は止まりません。すでにアメリカの戦死者は1500人をこえました。
 アフガニスタンでは、オマル師もビン・ラディンもまったく消息不明のままです。力づくで押さえこみ、石油などの利権だけはアメリカが独占しようとする政策には明らかに限界があります。日本は、そんなアメリカに追随してはいけません。

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