弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年5月 2日

アメリカCEOの犯罪

著者:D・クィン・ミルズ、出版社:シュプリンガー・フェアラーク東京
 ハーバード、ビジネス・スクールの教授がアメリカ企業の実態を暴き、皇帝CEOとそれを支える取締役会、会計士そして弁護士の犯罪性を厳しく糾弾した本です。日本の監督法人と企業内弁護士も胸に手をあてながらぜひ読んでほしいと思いました。
 まず、CEOたちが権力の乱用をはじめた。それに会計事務所や弁護士そして投資銀行が投資家の信頼を裏切って加担した。銀行家やアナリスト、ブローカーは組織的な詐欺をしなければ投資ビジネスで裕福な生活はできない。ところが、投資家が貪欲だったから騙されたなどと嘘をついて自己弁護している。 CEOにストック・オプションが与えられるようになってから、会社の株価が上がるとストック・オプションによってCEOに莫大な富をもたらすことから、CEOはどんな手段をつかってでも、株価を引き上げたいという強い誘惑にかられるようになった。それは、たとえ会社が破綻し、株主が貧乏になろうともだ。売り上げと利益を水増しし、株価を急速につり上げるためには詐欺も働く。取締役会も株主を裏切ってまでCEOのために行動する。そして、その裏切りは寛大な報酬ないし退職金で報われる。
 CEOの冷酷さが表面化したのは1990年代になってからのこと。1990年から2000年に、CEOに支払われた報酬は511%増加した。それに反して、一般労働者に支払われたのはわずか37%増だった。CEOの報酬と一般労働者の賃金との比率は1980年に55対1であり、1990年に130対1であったが。2000年にはなんと580対1にまでなった。
 かつて会計士は、公正な帳簿管理者たらんとした。しかし、1990年代には、ゲームのプレーヤーになった。会社が債務を投資家の目から隠すのを手伝ったり、CEOが大金を懐に入れる手伝いをするようになった。会計は相当厳格な規律にもとづくものと世間で思われているが、実は裁量の幅は大きい。しかも、会計事務所はコンサルティング業務でもうけようとして、監査をCEOに甘くした。大手企業は監査法人に対して、監査手数料の3倍をコンサルティング・サービスの手数料として支払っている。
 弁護士も、かつては自らを企業の良心の守護者だと思っていた。しかし、弁護士も、日常的に、法律違反が明らかになるような情報をいかに当局に隠すのかをアドバイスし、テクニカルに合法だと思われるように仕立て上げるようにアドバイスしている。法律をいかにしてねじまげるかに弁護士も頭をひねっている。だから、投資家や株主が会社の顧問弁護士によって守られることは期待できない。大変厳しい指摘がなされています。日本の企業内弁護士は大丈夫でしょうか・・・。
 メリルリンチのような投資会社やアナリストたちは、内輪では二束三文、くだらない最低のものと見ていた会社を投資家に「買い」だと推奨していた。今や投資家はアナリストを信頼すべきではない。そのうえ、CEOには失敗しても巨額の報酬が与えられる。会社の業績が悪くても、会社が倒産しても高額の退職金(ゴールデン・パラシュート)をもらえ、オプションの現金化が認められている。
 ビジネス・スクールは、大学を卒業して実社会で数年のあいだ経験を積んで入学するから、平均は26歳である。彼らは、20年間働いて大金持ちになり、ヨットで楽しむことを目ざしている。倫理講座なんて必要ない。金もうけして何が悪いのかという雰囲気がビジネス・スクールにはある。
 何だか心が寒々となってくる本です。こんな状況のアメリカを日本がお手本にしてよいとはとても思えません。いかがでしょうか・・・。

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