弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年4月28日

江戸時代の村人たち

著者:渡辺尚志、出版社:山川出版社
 江戸時代の庶民の生きざまを知れば知るほど、日本人って昔からあまり変わっていないんだな、つくづくそう思います。この本は今の長野県諏訪地方の村々をターゲットにして、そこに住む人々の生活を残された資料にもとづいて再現したものです。
 村同士で治水や入会などでしきりに裁判をおこしていました。日本人って、昔から裁判が好きなんですよね。しかも、その裁判は江戸でするのです。ですから、今の長野県の人々が東京高裁に出かけるようなものでしょう。半年間で320両のお金をかけていました。仮に1両を10万円とすると、3200万円かけていたわけです。このお金を村は藩から借りたりしていました(公借)。利率は年12.5%です。村役人の名前で借りるのですが、その担保に村役人個人の所有地を提供したのです。ということは、村役人の個人所有地であっても、村全体の利益のためという制約が課せられて当然という法意識があったわけです。所有権絶対というのではないのです。
 また、裁判のために村の代表として江戸に出かけた人たちに不手際があったときには、村人の投票で新しい代表を選ぶことが行われていました。そもそも、村役人の選出も投票(入札、いれふだ)が一般的でした。ただし、投票できるのは戸主のみです。被選挙権についても大前(おおまえ。村役人に就任できる家柄の者)と小前(こまえ。大前以外の者)とで争いがありました。小前側は、これまで大前が独占してきた村役人の被選挙権を小前にも解放せよと要求したのです。最終的には5人の村役人のうちの1人が小前から選ばれるようになりました。
 村役人にはそれなりの能力が求められます。村に寺子屋がつくられ、師匠を村の外から5年の任期で招くということもありました。村人も教育熱心だったのです。同じように、医者も村外から招きました。

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