弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年4月27日

戦争請負会社

著者:P・W・シンガー、出版社:NHK出版
 現代の戦争が大きく様変わりしていることがよく分かる本です。アメリカでは刑務所の民営化がすすんでいるそうで驚きますが、戦争まで民営化がすすんでいるというのです。それは同時に、国家権力とか「文化統制」まで空洞化されるという大きな問題もはらんでいるという指摘がなされています。うーん、そういう問題があるのか・・・。頭をかかえこんでしまいました。
 民間企業が賃金をもらって軍事業務を提供するという現象が広がっている。しかし、軍事請負業の実体は謎のまま。その民営軍事請負企業(PMF)の実態と、その問題点を批判的に暴いています。
 アフリカでPMFをつかうのは政府や多国籍企業だけではない。ブルンジではフツ族の反乱軍が南アフリカのPMF(スプアネット社)から兵器や訓練・作戦指導を受けたし、スーダンの反政府同盟もPMF(ダインコープ社)から兵站支援を受けた。
 サウジアラビア国防軍はヴィネル社から訓練を受けているが、ヴィネル社には1400人の従業員がいて、その多くはアメリカの元特殊部隊員。8億ドルで契約している。
 しかし、PMFにもっとも高額のお金を支払っているのはアメリカ。1994年から2002年までに、アメリカのペンタゴン(国防総省)は、PMFと3000件、3000億ドルの契約を結んだ。ペンタゴンは物資集積所や基地の維持から軍の飛行訓練の7割以上まで外注している。たとえば、キューバのグアンタナモ米軍基地内にある捕虜収容所はBRS社によって4500万ドルで建てられた。また、ワッケンハット社はアメリカの13州と4つの外国で刑務所を経営している。
 エクゼクティブ・アウトカムズ社の平均給与は、兵士が月3500ドル、将校が4000ドル、空中勤務員は7500ドル。MPRI社は、アメリカの上級将校だった8人が設立した会社で、売上は1億ドル。1万2500人が待機している。
 コソボに配置されたBRS社は、兵舎192棟を建て、17000人の兵士を収容し、ヘリコプター発着所13ヶ所、航空整備施設2ヶ所、厨房兼食堂施設12ヶ所、大食堂施設2ヶ所、臨時浴場37ヶ所を建設した。良質の食事113万5000食、水5000万ガロン、ディーゼル油40万ガロン。便所700ヶ所で3万回のくみ取り、8万立方メートルのゴミを収集した。BRS社はアメリカ軍の補給部隊と工兵部隊を企業法人の形にまとめたもの。BRS社はバルカン半島のアメリカ軍に食糧を100%、戦術的また非戦術敵車輌の整備を100%、危険物の取扱を100%、給水90%、燃料供給の80%、建設機材と重機の75%を引き受けた。
 BRS社の親会社は、チェイニー副大統領がいた有名なハリバートン社であり、アフガニスタン、ウズベキスタン、グアンタナモなど、テロとの戦争が行われているあらゆるところで大金を稼いでいる。BRS社はロシア海軍とも契約した。沈没した原潜クルスクを引き上げる仕事を900万ドルで請け負った。
 ところで、PMFに外注化したからといって必ずしも経費の節約になるとは限らない。しかも、PMFに従事する兵隊が十分に働く(つまり敵をやっつける)かも疑問だ。PMFというのは、実は、もっとも肝心なときに雇主を見捨てたり、逆に雇主を支配する危険がある。というのは、PMFの社員が戦場を離脱しても、脱走罪にはならない。単なる契約違反にすぎない。強制力はまったくない。雇われ部隊の義務感とか責任感というのは、まったくあてにならない。負けそうだと思えば、さっさと戦場から逃げ出す心配がある。オレたちは、こんなやばい目に遭うほどのお金はもらっていないという口実で・・・。たとえ企業が顧客に忠実であったとしても、従業員の信頼性までは確実ではないのだ。
 国連の平和維持の役割をPMFにまかせようという議論がある。たしかに、PMFがルワンダに介入したとしたら、1日60万ドルで何十万人もの生命が助かった可能性がある。国連の作戦は1日300万ドルもかかったあげく、何十万人もの生命が奪われてしまった。ただし、たとえ、PMFが有効だったとしても、紛争を長期的に解決できるかどうかは別だということもみておかなければいけない。
 さらに、PMFは一国内の政治体制と軍隊とのバランスをつくり変え、文民と軍人の関係も大きく変えてしまう。
 PMFが社員に支払う給与は軍人に支払われる給与の何倍にもなることが多い。それは軍人に対して悪影響を与えてしまう。PMFと政府軍とが戦闘したという実例すらある。
 外交政策の道具としてPMFをつかうというのは、国家の仕事を民間会社に外注すること。しかし、民間会社は公的支配の外にある。監視できない存在だ。
 9.11のあと、多くのPMFが、ぼろもうけの列車に乗り遅れるなと言っていた。
 うーん、本当にいろいろ考えさせられる指摘です。戦争も軍隊も、すべては民間企業とそのトップの利益になっていくというのです。大勢の人を効率的に殺せるというのがビジネスになるなんて、本当におぞましいことです。あまりのひどさに読み終わって(いえ、読んでいる最中から)、身体中がブルブル震えてしまいました。

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