弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年4月12日

怪帝ナポレオン?世

著者:鹿島 茂、出版社:講談社
 すべての世界史的な大事件や大人物は二度あらわれる。一度目は悲劇として、二度目は茶番として。ヘーゲルはこう述べた。これはマルクスの「ルイ・ボナパルトのブリュメール18日」の一節です。私にもそのイメージは強烈でした。私と同世代の著者によるナポレオン3世を復権させようと試みられた本です。
 なるほど、その目的はかなり達せられているように思います。でも、結局のところ本当は茶番だったのではないのか。そういう思いも拭いきれないものがありました。466頁もの大部な本です。ナポレオン3世の生い立ちから、その限界まで、かなりよく分かる本となっています。
 ルイ・ナポレオンは、若いころ牢獄でサン・シモンやプルードンを読み耽っていたというのです。その影響はずっと続いていました。
 労働者階級は、なにものも所有していない。なんとしても、これを持てる者にかえなければならない。労働者階級は、現在、組織もなければ連帯もなく、権利もなければ未来もない。彼らに権利と未来を与え、協同と教育と規律によって、彼らを立ち直らせなければならない。
 これが「共産党宣言」が書かれる4年前のルイ・ナポレオンの言葉だというのには腰が抜けるほど驚いてしまいました。ルイ・ナポレオンが大統領に当選したのは、フランスの田舎に住む人々の大半が読み書きができず、ただ耳から入った候補者の名前が親しみのあるものかどうかだけで選ばれたということによる。これにもびっくりします。まるで今日のイメージ選挙と同じです。
 ルイ・ナポレオンの反対派は普通選挙の廃止を狙った。直接的にそれをしたのでは民衆が暴動を起こすので、骨抜きにする方法を考え出した。左翼的な都市部の労働者からのみ選挙権を取り上げるために、有権者の資格を定住期間3年以上の者に限るとした。都市部の労働者の多くは出稼ぎの季節労働者の多くは出稼ぎの季節労働者だったから、これによって1000万人の有権者のうち300万人が参政権を失った。パリでは有権者の63%が資格をなくした。
 でも、今の日本でも同じことが行われましたよね。小選挙区制です。お金のかからない選挙になるという「美名」で(もちろん、真っ赤な嘘です)小選挙区制になって、国民のさまざまな意見が国会に反映するのが本当に難しくなりました。今では、中選挙区制に戻すべきだというのが、良識ある人の常識になっているように思います・・・。
 ルイ・ナポレオンはナポレオン3世になってから、労働者階級に向けた政策を実施していきました。労働者共同住宅をつくり、親が授業料を支払えない子どもへの無償教育の保障、困窮者への裁判費用の免除と官選弁護人の選任、などです。
 オスマンと組んでパリの大改造にも着手し、断行しました。今のパリをつくりあげたのです。しかし、晩年のナポレオン3世はドイツとの戦争にみじめに破れ、ドイツの捕虜になってしまいました。ここらあたりの記述になると著者の弁論は冴えません。やっぱり茶番だったな、そう思ってしまいました。
 マルクスの本を久しぶりに読み返してみたいと思ったことです。

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