弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年4月 6日

ウルカヌスの群像

著者:ジェームズ・マン、出版社:共同通信社
 ブッシュ戦争内閣を動かす外交チームの実像に迫るとオビにあります。本文を読んで、なるほどと思いました。ウルカヌスというのは、ローマ神話の火と鍛冶の神であり、ライスやウルフォウィッツやアーミテージ、そしてチェイニーやパウエルというグループの自称です。
 ウルカヌスは伝統的な国家安全保障問題を中心的な関心事としていて、国際経済におけるアメリカの役割は民間の経済界にまかせている。ウルカヌスは、アメリカのパワーと理念は大きくみて世界に善をもたらすと信じている。アメリカは強く、そしてますます強くなると確信している。
 コリン・パウエルの考えはパウエル・ドクトリンとして公式化された。明確な目標の必要性、アメリカ世論の支持、圧倒的な兵力の投入。戦争は政治の最終手段であるべき。戦争をするときには、国民の理解と支持の得られる目的を持ち、その目的を達成するために国を挙げて資源を動員し、そして勝利しなければならない、というもの。
 パウエルは、貧しく教育のないアメリカ人ほど戦闘に駆りだされて死んでいく様子に深い不公平感を抱いた。有力者の子弟やプロ・スポーツ選手の非常に多くが予備兵や州兵にうまくもぐりこんだことに憤りを感じてもいた。
 パウエルにとって、アメリカの軍事力を維持するうえで大切なのは、それを控えめで慎重に行使すること。実際のところ、パウエルは世間が思っているようなハト派だったことは一度もない。パウエルは長期にわたる殺伐とした、コストのかかりすぎる軍事的介入をアメリカは避けるべきだという信念をもっていた。しかし、それは実際的な考慮からであり、平和主義的な信念からではない。パウエルがめざしたのは、ベトナム戦争のように泥沼に2度と入りこむことを避けながら、アメリカの軍事力を維持・増強していくこと。
 ウルカヌスのヴィジョンは先制行動論、他の追随を許さない超大国アメリカ、超大国アメリカはその民主的価値を海外で広めることを求める。という3つの要素を統合したものからなる。
 臆病者のタカとは、戦闘の経験がないにもかかわらず、戦争を鼓舞する者のことで、チェイニー、ウルフォウィッツその他のブッシュ政権内の兵役経験をもたない人たちを指していた。この25年間を通じてネオコンたちの根底にある関心は、一貫して変わらなかった。アメリカの主要な敵対者をうち負かすために自国の軍事力と理念を推進することがネオコンの一貫した立場である。
 ウルカヌスはアメリカの能力に対して底抜けの楽観主義を抱いている。
 ウルカヌスたちの予想がはずれてしまったのは、今日では明らかなのではないでしょうか。すでにアメリカ兵の戦死者は15000人をこえました。もっとも、イラク人の死者の方は10万人をこえたとみられていますが・・・。イラク占領の負担は、いまやアメリカ経済への限りない重圧になっているように思われます。いつまでもウルカヌスたちに我が世の春を謳歌させていくわけにはいきません。といいつつ、ライス国務長官の悪びれない自信にみちみちた笑顔には怒りをとおりこして呆れてしまう、というのが私の率直な感想なのです・・・。他国を平気で侵略して、何十万人もの市民を虐殺しておきながら、どうして、あそこまで自信満々でいられるのか、不思議でなりません。

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