弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年4月 4日

絵本の深層心理学

著者:矢吹省司、出版社:平凡社
 絵本は子どもが読む本というよりは、むしろ大人に読んでもらう本。つまり、絵本は大人が読む本。
 主体的な存在としての人間が、子どもという理由だけで親に支配される。この矛盾から、子どもは親に反抗する。
 子どもは親が頼みの綱、命の綱。その綱が切れてしまうんじゃないかという不安は強烈。
 たしかにそうです。私は小学生のころ、兄と2人で、父親の実家で夏休みを過ごすことがありました。昼間は魚釣りしたり楽しく過ごしましたから、いいのです。問題は夜です。広い座敷に兄と2人で寝ます。ボーン、ボーンと時計がうら寂しい音をたてます。ああ、家でお母ちゃんたちは何をしているかなー・・・。火事にでもあって、親が焼け死んで孤児になっちゃったらどうしよう・・・。夜ごとホントに真面目に心配していました。この世に自分ひとりが残されて天涯孤独の身になったとき、どうやって生きていくのかしらん・・・。心配でたまりませんでした。心細くなっているうちに、寝入ってしまいました。朝になったら、ケロリンコンです。
 いろんな浮き世のしがらみを断ち切って身軽な独り身になったら、自分の素晴らしさは今より際だち、みんなからもっとちやほやされるだろう・・・。機関車ちゅうちゅうは夢想した。しかし、それは経験を通して、完膚なきまでに否定されてしまった。自分のアイデンティティは自分ひとりでは生み出せない。それは他人との関係をへて完成し、他人との関係によって維持されるものだ。
 子どもにとって母の愛を信じられるということは、世界を基本的に信頼できるということを意味している。子どもは、しつけを強要する社会的な意思に逆らいたいという欲望も抱いている。社会的な欲求との両極端に子どもの心は分解しがち。このスイングを繰り返しながら、自分のなかの社会性と反社会性との葛藤に折りあいをつけ、そうすることで幅も深みも奥ゆきもある人格の土台を築いていく。
 子どもは人生の土台となる心の強さを身につけようとがんばっていて、それが切実な生活のテーマとなっている。人生の土台となる心の強さとは、基本的信頼、自律性、自発性のこと。基本的信頼とは、自分が現に生きているこの世界は、不都合な問題を次々と押しつけてはくるけれど基本的にはいいところだ、そうと信じてずっとここで生きてゆきたい、生きてゆけると実感できる能力のこと。自律性とは、自分の心と体はたとえ思いどおりにならないことがままあるとしても、基本的には自分の主体は自分であると実感できる能力のこと。自発性とは、自分は現実的にも心理的にもずいぶん抑圧されてはいるけれど、基本的には自由である、自分の意志で生きてゆけると実感できる能力のこと。
 うーん、いい言葉にめぐりあえました。なるほど、そうですよね・・・。いい本に出会うと、心のなかはすっきり洗われて、気持ちがあったまって、すがすがしくなります。
 モノカキを自称する私も絵本に挑戦してみましたが、残念なことに、売れゆきは芳しくありませんでした。何を訴えたいのか、もうひとつ明確でなかったことに主な原因があると反省しています。それにしても、絵本はいいものです。
 子どもたちが小さいときは、毎晩のように、絵本を読んでやっていました。それは自分に言いきかせるような内容だったのですから、読んでいる私の方が楽しくなって、励まされたりもするのです。まさに大人にとっての絵本でした。斎藤隆介「八郎」やかこ・さとしの「カラスのパン屋さん」などをすぐに思い出します。最近は大分の立花旦子弁護士にすすめられた「嵐の夜に」もいい絵本でした。
 ここに紹介されている絵本の半分ほどを読んでいたのも、うれしいことでした。

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