弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年3月23日

日本の裁判所

著者:萩屋昌志、出版社:晃洋書房
 今すすめられている司法改革のなかで、最高裁による裁判官統制システムにはほんとど手がついていないという不満が弁護士会内にあります。最高裁事務総局を頂点とするキャリアシステムを温存してしまったという不満です。私もその点は同感です。
 最高裁は、たとえば日本野鳥の会に裁判官が入るのは自由だと弁解していますが、そんな弁解をしなくてはいけないこと自体が異常なんです。この本によって、最高裁による裁判官統制が目に見える形でとられていた事実を再確認することができます。
 1970年10月、国会の裁判官訴追委員会は裁判官213人に対して、青年法律家協会(青法協)の会員かどうか照会状を出しましたが、最高裁はこれを黙認しました。
 この年(1970年)1月に最高裁事務総局付判事補15人のうち10人の青法協会員の判事補が退会届を内容証明郵便付きで発送しています。いまの最高裁長官はこのとき率先して退会届を出したひとりだと言われています。
 裁判官の再任拒否は、これまでの30年間に3人しかいませんでした。ところが、2004年4月に任期切れとなる180人の裁判官のうち6人もの裁判官が不適格として再任が拒否されました。これをどうみるかですが、裁判所のなかにも弁護士会のなかにも大きな動揺は生まれていません。それくらいの拒否者が出ても当然だという雰囲気があるのです。九州では今のところ再任拒否者は幸か不幸か出ていません。しかし、私の実感からすると、再任拒否が相次いでもちっとも不思議ではありません。本当に裁判官には向いていないな、そう思う人が平然と裁判官を続けている現実を、この30年以上見てきたからです。
 法廷で威張りちらす、記録を十分に読んでいるとはとても思えない、いかにも一方に肩入れする、やる気のない審理態度・・・。いやになってしまう、早く辞めてほしい、そんな裁判官は決して少なくはありません。弁護士になって、少しは「客商売」の苦労をしてもた方が本人のためになる。そういう思いにかられる人は多いのです。いえ、決して私ひとりがそう思っているわけではありません。裁判官評価アンケートの結果をみると、多くの弁護士の評価は一致しているのです・・・。
 できる裁判官というのは、事務処理能力がすぐれている、事件処理が早く判決をどんどん書ける人だということです。優しいとか、思いやりのある人だということは裁判所内では高く評価されません。
 裁判官の不祥事はめったなことでは表面にあらわれません。1980年10月の水沼宏判事(旭川地裁)の泥酔しての暴行事件。1981年の谷合克行判事補(東京地裁)の破産管財人の弁護士からのゴルフセットと洋服生地の収賄事件くらいです。
 ミスター最高裁として、いわば司法反動の権化とも言うべき矢口元最高裁長官が、退官してから、なんと裁判官のキャリアシステムを批判しはじめたのに驚いたのは私ひとりではないでしょう。矢口元長官は判事補制度に批判的でもあり、キャリアシステムの時代は過ぎた、法曹一元が必要だと高言しています。ええっ、そんなこと現役のときに言ってほしかった・・・と私などは、ついぼやいてしまいます。
 最近、裁判官ネットワークというグループが出来て活発に活動しています。ホームページもたちあげていますので、私もときどきのぞいていますが、面白い内容です。残念なことに参加者が少なく、現職の裁判官は30人もいないのではないでしょうか。20代、30代はゼロのような気がします。若い世代の裁判官はいったい何を考えているのか。先が思いやられます。私は心配でたまりません。その克服のためにも、ホネのあるベテラン弁護士(40代)にどんどん裁判官になってほしいと考えています。

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