弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年3月11日

近代日本の徴兵制と社会

著者:一ノ瀬俊也、出版社:吉川弘文館
 日本人は、世界に類例のないほど、日記をつけるのが好きな民族だと言われています。私自身は小学校のとき、夏休みに絵日記をつけていたほかは、小学4年生の一時期つけていたくらいです(その代わり、読書ノートは大学生以来ずっとつけています)。
 多くの日本兵が日記をつけてことを知ったアメリカ軍は、捕虜だけでなく戦死者の日記も収集し、日本軍の戦略だけでなく日本兵の心理状態まで解読・分析につとめていました。なぜ、多くの日本兵が戦場で日記をつけていたのか?
 実は軍部の方針として兵士に日記をつけさせていたのです。
 日記は兵士を文通どおり型にはめる有効な手段として機能していた。自らの手で教育訓練内容を書きつけ、記憶させるという狙いだった。出世競争にかられていた兵士にとっても、日記の内容は軍隊的価値を自分がいかによく体得しているか、上官に対してアピールしてみせる場でもあった。
 戦前、徴兵忌避・逃亡者はいたが、年々減少の一途をたどっていった。圧倒的多数の成年男子が順々と兵営に向かい、戦争で命を落としていった。そうはいっても、戦前の軍は自己の存在意義、兵役義務を国民が履行することの必然性を、繰り返し社会に対して語らねばならなかった。徴兵制度の正当性は決して所与の前提ではなかったからである。
 この本には戦死者の妻が親からの不当な要求に屈せず、役所に対して扶助料の全額支給を求めてたたかい続けたケースが紹介されています。やはり生活していかなければならないという現実は「軍国の母」を強くしたのです。
 いろんなことを考えさせられる本でした。

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