弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年2月17日

死亡推定時刻

著者:朔 立木、出版社:光文社
 この著者の『お眠り、私の魂』を読んだときには驚きました。東京地裁の裁判官の行状が迫真的に、まさに赤裸々に描かれていたからです。裁判所の内部に通暁していないと、とてもここまで細部にわたっての描写は無理だと思いました。
 小説家を志したものの、刑事訴訟法に興味を覚えて法曹になったと自らを紹介しています。覆面作家なのですが、いわゆるヤメ判の弁護士ではないかと想像しました。というのも、この本では弁護士界の内情がことこまかに描かれているからです。それも山梨県弁護士会の私選弁護人の無能ぶりが強調されています。被告人の老母から着手金60万円をもらっているのに、殺人事件で、まともな弁護をしませんでした。つくられた自白であり、自分は無罪だと被告人が訴えているにもかかわらず、です。それを、東京の若手弁護士が控訴審での国選弁護人に選任されて見破りますが、悪戦苦闘します。その努力が報われ、ついに逆転無罪を勝ちとる、と言いたいところですが、現実は厳しい。上しか見ていない強権的な判事たちは、重大な矛盾点に目をつぶり無罪とすることなく、死刑を無期懲役にしただけでした。
 刑事裁判の現実をフツーの市民に知らせるテキストにもなる面白い推理小説だ。そう思いながら一気に読みとおしました。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー